サービス化:第1回 企業と顧客が共創する、新たなビジネスモデルへの挑戦
- サービス化とは「顧客の経験価値を生み出すビジネスモデル」を創出すること
- DXによる既存事業のサービス化で、顧客に新しい経験と価値を提供できる
- 企業同士がつながることで、互いの強みを生かし、柔軟でスピーディーな開発が可能になる
「モノづくり」から「価値づくり」への転換
ごく単純に表現すれば、サービス化とは「モノ(製品)を作って売るだけでなく、そのモノを介して生まれる新しい経験・価値をも提供するビジネスモデル」を目指す取り組みです。
ビジネスのサービス化には、「モノ」と「サービス」の捉え方を従来とは大きく変えることが必要です。そしてこの新たな概念への理解を深める基盤となる考え方が「サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)」です。
「全ての経済活動はサービスである」という考え方
従来のビジネス、特に製造業においては「モノ(製品)」と「サービス(モノを使うことに伴う経験)」は切り離して考えられてきました。多くの場合「サービス」は、モノを提供した後の付随的なものとして捉えられていたのです。
こうした概念を覆したのが、ロバート・R・ラッシュとスティーブ・L・バーゴが提唱した「サービス・ドミナント・ロジック」でした。
「サービス・ドミナント・ロジック」において主張されたのは「全ての経済活動はサービスである」ということです。そして「価値は、顧客がモノを使いこなすことで生まれる」というのです。
いわば「モノをつくり、売ること」と「サービスを提供すること」を隔てていた壁が取り払われ、製品そのものと同様に顧客の経験を重視し、モノを利用するという経験によって生み出される価値こそが(企業と顧客それぞれにとっての)対価となるという考え方がもたらされたのです。
顧客志向と顧客起点:「モノづくり」から「価値づくり」へ
製造業の多くは、これまで「顧客志向」の考え方で「モノ」をつくり、販売してきました。顧客の立場に立って考える、どちらかといえば心理的なアプローチです。顧客のニーズへの理解をモノの開発・販売のために用いることで、競争優位性を高めようとしていたのです。
一方、顧客の実際の行動データ(購買、ウェブ広告への反応など)を分析するというアプローチによる「顧客起点」の考え方を強めた企業は、「モノの価値より、モノを介したサービスによって生まれる価値を顧客は望んでいる」と気付き始めました。
サービス化を支える2つの「つながり」
サービス化を進める上で欠かせない、重要なステップの1つが「モノの利用に伴うデータ」の獲得と活用です。ここでは「つながり」をキーワードに、サービス化を支える技術と仕組みについて取り上げます。
IoTが「つながるビジネス」の基盤に
「サービス・ドミナント・ロジック」が主張した「サービス」の概念が急速に浸透した背景には、ビジネスに必要な情報をデジタル化し、共有して活用するデジタルトランスフォーメーション(DX)の広まりがありました。
そもそも「モノを使うこと・経験によって価値が生まれる」のならば、企業はまず、顧客がどのようにモノを使っているのか、どのような経験を得ているのかを把握することが必要です。
「モノ(というサービス)を提供し、データを集め、価値を計る」という流れをつくる上で重要な役割を担ったのがIoT(Internet of Things モノのインターネット)です。さまざまなモノがインターネットに接続され、データの送受信、あるいはモノ同士での情報交換が可能になりました。そして企業は、顧客がモノを利用したときの状況をデータとして蓄積・保有し、解析することができるようになったのです。
こうした仕組みを活用することで、企業が利用状況をデジタルデータとして収集・分析し、顧客に還元される(情報のアップデート)という循環が生まれました。顧客はそのメリットを、特に意識せずに享受することができます。
つまりサービス化は、IoTによって収集されたデータを活用し、企業と顧客の共創によって「価値づくり」を図る、企業と顧客がつながるビジネスモデルを目指す取り組みでもあるのです。
企業同士がつながる「インダストリープラットフォーム」戦略
サービス化の進展において重要なポイントの1つが「顧客が得る経験の質」の向上です。
顧客のニーズはさまざまです。しかし、そうした多種多様な顧客課題やニーズに対応しようとする多品種少量生産、あるいは個別受注生産への対応は、個々の企業やサプライチェーンに大きな負担をもたらします。
そこで、国や企業、業界や業種の垣根を越えたオープンイノベーションによって問題を解決しようとする企業が登場しました。ヒト、モノ、カネ、情報、ブランドといった経営資源を共有することで負担を軽減し、生産性の向上を目指したのです。
こうした、オープンイノベーションに基づいて構築された産・学・官にまたがる共同体は「インダストリープラットフォーム」と呼ぶことができるでしょう。
サービスの提供者と利用者が集まる魅力的なプラットフォームに参加する企業は、バリューチェーンの獲得、新たな顧客との接触、利用状況に関するデータの取得、あるいは角度の異なる顧客へのヒアリングといったメリットを得ることができます。それぞれの強みや知見の共有・相互利用を可能にしたプラットフォーム(基盤)は、サービス化に推進力を与えるものとなりました。
プラットフォーム上でタッグを組む企業がそれぞれの強みを生かすことで、これまで難しいとされてきた分野にも挑戦できるようになりました。個々の企業が大事にしてきた顧客層をマッチングし、テクノロジーとノウハウ、価値観を共有するという、垣根を越えた“つながり”に基づく戦略の実現です。
インダストリープラットフォーム事例:スポーツテック
インダストリープラットフォームによってサービス化が進んだものの1つが「スポーツテック(Sports-Tech)」です。
スポーツ(sports)とテクノロジー(technology)の組み合わせによって、競技や判定、観覧・観戦の環境改善、新たな用品・グッズの開発、選手へのサポートの充実など、スポーツに多くの変化を生み出しています。
スポーツテックの一例として、スポーツIoT事業を展開する企業や大手電気通信会社がタッグを組んで開発した「IoT野球ボール」があります。ボールに内蔵されたセンサーから得られた情報を基に、選手の投げた球の回転数や球速などをデータ化します。また別途ソフトウエアから入力した、選手の体調に関するデータなどとも組み合わせて、選手の技術向上やケガ防止に活用されています。
インダストリープラットフォームのメリットとは?
インダストリープラットフォーム戦略には、以下のようなメリットがあります。
- プラットフォームを構成する企業や組織は、それぞれが得意とするテクノロジーやノウハウの合体・融合ができる。
- 協働と連携により互いの強みを生かし、スピーディーに開発が進められるバリューチェーンを形成することができる。それによって市場への迅速な対応が可能になる。
- それぞれの参加企業が囲い込むロイヤルカスタマーを共有できる。
- それぞれの企業のステークホルダーが幅広いデータを保有している。プラットフォームはそのデータを扱うシステム基盤ともなり、個々の企業では得られなかった、より広範なデータの取得が可能になる。データの相互利用は、サービス価値を数段高める結果をもたらす。
企業は、顧客が直面する課題や現象的なニーズに対応した「顧客視点」から、顧客が諦めていた問題や描き切れなかったニーズを「顧客起点」で実現しようとしています。インダストリープラットフォーム戦略によって、顧客の“夢”であった高度なサービスを提供することが実現したのです。
サービス化時代の企業の姿とは?
これからのビジネスは、顧客との結び付きや顧客に寄り添った価値づくりが中心となり、コラボレーション、相互依存による「共生」をコンセプトとするエコシステムの生成が目標となるのではないでしょうか。
現在の企業・組織は、それぞれの持つ魅力が結び付き連関し合う、不可能を可能にする新たなエコシステムへと昇華していくステージに立とうとしています。サステイナブルな企業になるべく協働・共創しながら進む、これこそDX時代における、企業の1つの姿といえるでしょう。
「モノ」と「サービス」の概念を変え、IoTの活用によってビジネスモデルを変化させるサービス化。今回の記事では、サービス化の基盤となる考え方とIoTの関係ついてご紹介しました。
次回はサービス化を果たしたビジネスの事例を紹介し、その成功のポイントを探りながら、自社のビジネスをサービス化するためのアプローチについて考えます。
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