生産性向上とは何か? 働き方改革に不可欠な2つの観点 その①

日本で「働き方改革」が話題に上るようになって久しいですが、感染症拡大やDX、競争環境のさらなる激化によって、ますます重要性を帯びてきています。

働き方改革を推進するにあたっては、2つの観点を持つことが欠かせません。1つは、組織の労働生産性を高める「生産性向上」という観点。そしてもう1つが、業務に取り組む従業員の幸福感や充実感を指す「ウェルビーイング」という観点です。

今回は特に「生産性向上」に焦点をあて、その概要を押さえつつ、取り組みの進め方をご紹介します。

  • 働き方改革の推進には「生産性向上」と「ウェルビーイング」のバランスが重要
  • 生産性向上が強く求められるようになった背景には、生産年齢人口の減少、働き方改革推進・法改正といった社会の変化がある
  • 生産性向上には「業務改革」「業務改善」「職場の風土改革」という3つのアプローチがある
目次

    生産性向上とウェルビーイング

    働き方改革に不可欠な2つの観点、「生産性向上」と「ウェルビーイング」とは、どのようなものでしょうか。

    生産性向上とは

    「生産性向上」とは、企業活動における労働生産性を向上させることです。
    ※本コラムでは「生産性向上」を「企業活動における労働生産性を向上させること」として扱っていきます。

    労働生産性は、従業員一人ひとりの仕事によって生み出される価値(付加価値)の大きさを指し、業務の効率性を測る尺度となるものです。
    生産性向上のためには、仕事量に対して得られる成果が小さく付加価値が低い業務を断捨離(廃止)し、より付加価値の高い業務へとシフトしていくことが求められます。
    抜本的見直しとまではいかなくても、現時点で取り組んでいる仕事を可視化し、業務の無理・無駄・むらを削減するための改善を積み重ねていくことも生産性向上につながります。

    ウェルビーイングとは

    ウェルビーイングとは、簡単にいうと「幸福な状態」のことを指します。ただ、一時的な「うれしい」「幸せだ」といった感情ではなく、身体的、精神的、そして社会的にも満たされた、より長期的に感じる幸せのことを指します。

    従業員のウェルビーイングが高い組織は、一人ひとりのパフォーマンスを向上させることができ、組織力の強化や生産性の向上にもつながります。

    働き方改革を進める上で、生産性向上は不可欠であり、非常に重要です。しかし、生産性向上だけに偏った取り組みを進めてしまうと組織全体や、そこで働く個人が疲弊していってしまいます。

    長期的な視点を持って働き方改革を進めるためには、生産性向上とともにウェルビーイングを意識した組織づくりが非常に重要となります。

    生産性向上がますます求められる社会の変化

    近年、企業の生産性向上がより強く求められるようになりました。その背景には、どのような変化があったのでしょうか。

    生産年齢人口の減少

    少子高齢化の進行によって、日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は1995年をピークに減少し続けています。2015年時点では7728万人でしたが、2030年には6875万人、2060年には4792万人にまで減少すると見込まれています。

    参考:国立社会保障・人口問題研究所「出生中位(死亡中位)推計(平成29年推計)」
    https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/db_zenkoku2017/s_tables/1-1.htm

    競争環境の激化

    企業間の競争が激化する中で、成長を続けるためには、新しいものを生み出す必要があります。ただ、そのために必要な人材を、求めるタイミングですぐに確保するのは、難しい状況です。限られた人員の中で生産性を高めることが、土台になります。

    働き方改革を推し進める法改正

    2019年4月に「働き方改革関連法」が施行されました。業界によって適用の時期は異なりますが、各企業には「労働時間の見直し」と「雇用形態に関わらない、公正な待遇の確保」が義務付けられています。関連法に基づいて、企業は従業員が残業をしなくても業務が円滑に回るように取り組むことが求められています。

    経営における生産性、生産性向上とは

    経営における生産性とは「投入した経営資源に対し、どれだけの付加価値を生み出せたのか」を意味します。投入される経営資源が小さく、生み出される付加価値が大きいほど、生産性が高いということになります。

    ですから、生産性向上の概念は下図のような分数で表現することができます。

    分母は経営資源、つまり経営資源で人・モノ・金・時間。分子はアウトプット、すなわち成果を意味し、業績や付加価値です。分母が縮小し、分子が拡大することで、生産性向上が実現されることがわかります。

     

    分母の縮小は、投入する経営資源(人員や時間)を少なくする、コストダウンによって実現できます。

    分子の拡大とは主に環境変化に対応し、さらなる業績拡大に向けて競争優位を高めるための戦略を策定、実践し、業績や付加価値を上げていくということです。

    生産性向上を推進する3つのアプローチ

    生産性向上を推進するための3つのアプローチ、「業務改革」「業務改善」「職場の風土改革」をご紹介します。

    アプローチ1:業務改革

    業務改革は、既存業務について、その提供価値を根本から問い直し、全社や部門のミッションに対する貢献度をみながらスクラップ・アンド・ビルドします。

    組織や部門のミッションに照らし合わせ、業務を抜本的に見直して生産性向上を目指す方法です。

    業務改革というと、システム化やアウトソーシング化を検討しがちです。しかし、組織のミッションに貢献しない業務をそうした手法で効率化しても、生産性向上にはつながりません。まず、業務そのものの存在価値・目的を見定めることが重要です。

    抜本的な改革による、組織内業務の大きな効率化が期待できますが、必然的に大きな組織構造変革・組織文化変革・人員シフトを伴います。

    関連サービス:業務改革コンサルテーション

    組織の使命(ミッション)に基づいて現状業務を見直し、ミッションへの貢献度をみて業務のスクラップ&ビルドを行う業務改革を支援します。

    アプローチ2:業務改善

    業務の無駄を削減し、生産性向上を目指す方法です。

    業務改善は、既存の業務が価値あるものという前提で、主にその手段や手順(プロセス)の見直しを行います。大きく分けて、既存業務の可視化→分析→改善のステップで進めます。

    業務改善には可視化(見える化)が必要不可欠です。各業務の内容やプロセス、目的、成果物の役割などを整理し、業務の詳細が「見える(把握できる)」状態にすることで、費やされる時間やコストをはかることができ、改善の手を打てるからです。

    生産・製造現場と比較し、間接部門の効率化はほとんど進んでいないといったケースも多く見受けられます。リモートワークが定着しつつある昨今、生産・製造現場だけでなく、間接部門における業務フローを改善することが大きな生産性向上につながります。

    関連サービス:公開講座 ビジネス・プロセス革新エンジニア資格取得支援講座(BPIE)

    4日間で「業務プロセスの改革・改善を推進するスペシャリスト」を養成する公開講座です。

    ここまで生産性を上げるためのアプローチとして、業務改革、業務改善をご紹介してきましたが、この二つの方法を理解していてもなかなか生産性が上がらない場合があります。

    業務改革や改善の社内プロジェクトを実施しても、実際の業務がなかなか変わらず生産性が上がらないのです。その原因の多くは、変化を妨げる職場風土に起因します。

    アプローチ3:職場の風土改革

    業務改革や改善を効果的に進めるために、職場の風土(共有されている感覚や価値観)を変え、生産性向上を目指す方法です。 

    たとえば、業務時間内で高い成果を上げる社員Aさんがいたとします。しかし、遅くまで残って仕事をしている社員が「頑張っている」と評価されるような職場では、Aさんのスキルは十分に評価されないでしょう。その結果、本来なら定時で終業できるAさんも遅くまで残るようになってしまえば、職場の残業削減は進みません。

    このように、職場風土はメンバーの行動、そして生産性に大きな影響を及ぼします。裏を返せば、職場風土を改めてメンバーの行動を変え、生産性を高めることもできるはずです。

    職場の風土改革は、メンバーにより良い影響を与える環境づくりともいえそうです。

    関連サービス:ポジティブ・アプローチ職場活性化プログラム

    拠点やチームに焦点をあて、心理的安全性の高いクリエーティブな職場づくりをポジティブ心理学に基づいて行う職場開発プログラムです。

    取り組み事例

    取り組み成果

    • 全社を対象に業務改革を実施し、取り組み開始2カ月で約3100時間に及ぶ業務時間を削減。

    企業情報

    ・業界:建設
    ・主な事業:建築の設計および工事管理
    ・売上高:約345憶円
    ・社員数:約400名
    ・対象部署:全部門
    ・対象者:全従業員

    取り組み概要

    • 全部門を対象に、業務実態調査などの各種データを基にした現状把握を行い、目指すべき将来の姿を共有するためのマスタープランを作成。
    • 部門ごとに、ミッションに貢献する業務とそうでない業務を整理・見える化し、貢献度合いにより業務の優先順位付けを実施。現場部門・内勤部門とも、現状労働時間の30パーセント削減を目標に生産性向上を図る。
    • 残業時間が突出している部門では、1人当たり「約4時間/日」の勤務時間削減目標を設定。施工に関わる業務の外注による効率化を行いつつ、一部の業務を他部門へ移管。
    • 組織全体で業務の大幅な見直しを進め、部門間の残業時間の格差是正に取り組んでいる。

    まとめ

    冒頭で触れたように、生産年齢人口の減少、働き方改革推進・法改正といった背景から、生産性の向上は企業にとって重要な課題となっています。その解決を図る3つのアプローチとして「業務改革」「業務改善」「職場の風土改革」をご紹介しました。

    しかし業務改革や業務改善によって得られる成果は、生産性の向上だけにとどまりません。

    業務の効率化によって残業が減り、余裕のある人員体制で休暇を取りやすくなれば、従業員のワークライフバランスが整います。また以前から着手しようと思っていたことに時間を使えるようになることで、仕事に対する満足度やモチベーションの向上も期待できます。

    つまり生産性向上を目指す業務改革・改善もまた、企業価値を高めるための取り組みなのです。

    こうした成果を生み出すには、生産性向上だけではなく、従業員が自らの仕事を通して満足感・充実感を得て、幸福だと感じられる環境をつくることも必要です。そこで求められるのが、働き方改革を推し進めるもう1つの観点である「ウェルビーイング」です。

    ウェルビーイングの詳細や、実現のための具体的な方法については、また別の機会にご紹介いたします。

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