1on1ミーティングの特長
日本で1on1が注目されるきっかけになったのは、ヤフー社が導入して話題になったことです。同社では、組織力の向上を目的として2012年に開始。役員も含め全社で継続的に活用しています。
ヤフーでの取り組みを紹介した、本間浩輔著『ヤフーの1on1』によると、ヤフー社では原則として週に1度、30分程度をかけて上司と部・「1on1ミーティング」は、ヤフー株式会社の登録商標または商標です。下が1対1で面談を行っています。
職場のメンバーと週1度面談というのは多いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、
その頻度は導入している組織によってまちまちです。しかしながら、最低でも月に1回は実施したほうが効果的であるとされます。
そして、1on1の特徴は2つあります。
- 上司と部下の「対話」であること
上司と部下が行う面談というとぱっと頭に浮かぶ絵は、期初の目標設定面談や期末の評価面談ではないでしょうか。これらの面談は、どちらかというと上司が部下に対して言うべきことを伝える場で、なんとなく緊張感が漂うものです。
一方1on1は、上司が部下に言いたいことを伝える場ではありません。部下が気兼ねなく、十分に話ができるように、上司はカウンセラーのように部下の話を聞くということを大事にします。
上司がそういった姿勢で関わることで、部下は上司が自分に関心を持ってくれていると感じることができ、現在の業務でつまずいていることや、関心事を上司に相談できるようになります。
部下の状況が分かれば、上司は部下にとって適切なタイミングで、適切なサポートをすることが可能になります。
- 部下の経験学習を促進すること
経験学習とは、文字通り経験を通して、そこから学ぶことを指します。
仕事では様々な経験をしますが、経験を多くしたからといって、必ずしも学びが深まるというものではありません。経験から学ぶには、うまくいったこと、うまくいかなかったことをなぜそうだったのかを振り返ることが重要です。
1on1は、部下の経験を一緒に振り返りながら、部下自身がその経験から教訓を得て、これからの業務に生かすという流れを促進できるように関わります。
定期的に1on1を実施し、経験学習を重ねることによって、部下が自分自身で様々な経験から学習し、自発的に考え、行動する力を育成することができます。
1on1を実践した管理職が感じた3つの効果
ここまで1on1についての概要について説明してきましたが、ここからは実際に1on1を職場で活用している管理職とその部下が感じている効果について触れていきたいと思います。
ヒアリングは、弊社の営業部門で自発的にチーム内で1on1を半年前から活用している社員に行いました。聞き取りをした中で共通していたことは、主に3点でした。
部下との信頼関係が生まれた!
1対1で対話する回数を増やすことが、信頼関係づくりにつながります。心理学用語では、「単純接触効果」と表現されますが「接する機会が多ければ多いほど、相手に好感を抱きやすくなる」心理現象があります。対話を重ねていくことで、親近感がわき、信頼関係も構築しやすくなります。
実際に1on1を取り入れている営業チームにヒアリングしたところ、実施前と比較して、上司との関係に変化がみられたと答えてくれました。
部下の声
“普段は上司は忙しいですし、業務以外のことでほとんど話をすることがありませんでした。初めての面談では、上司が自分の誕生日や出身や家族のことを聞いてくれたんです。上司が自分に興味をもって聞いてくれるのがすごく嬉しかったです。それに上司に自分から相談することはほとんどなかったんですが、1on1をするようになってから自分から相談しやすくなりました。”
上司の声
“一人ひとりと定期的に話すようになって、部下の習熟度や強みがよく分かるようになりました。そのため、お客様ごとに最適な営業担当を決めることができて、顧客満足度も高められたように思います。また、部下と定期的に対話することで、どういったところでつまづきやすいかということも分かるようになりました。そういったことを部下と率直に話し合えるようになったことで、部下との心理的距離が近くなったように感じます。”
部下の主体性が高まった
1on1を繰り返しているうちに「受け身だった部下が自分で考え、自発的に行動するようになった」という声も多くありました。
人がやる気になる(自発的な姿勢を持つ)には、3つの基本的欲求が満たされることが必要といわれています。
- 関係性への欲求:「相手に受け入れられている」と感じることができている
- 有能さへの欲求:「自分にはできる」と感じることができている
- 自立性への欲求:自分自身で決めて、ものごとに取り組めている
1on1ミーティングを通じて、上司と部下が一人ひとりに向き合うこと、できていることをこまめに褒め、部下の内省を深める関わりを積み重ねることができます。
対話を繰り返していくことで①~③の欲求を満たす関わりを築き、部下の主体性を伸ばすことができます。
部下自身の自己理解が高まった
ある20代の部下の事例です。本人はいつもタスクの締め切りが守れないことに課題を感じていました。しかし、何を改善すればよいのかはっきり理解していませんでした。しかし、対話を重ねることである時、自分自身の課題が腹落ちしました。タスクごとの完了の定義が曖昧なまま進めていたこと、完了までの仕事の段取りやスケジュールを立てていなかったことなどです。上司からすると、何度も本人に話をしていたことでしたが、部下にとっては、対話を通してはじめて「腹落ち」したようでした。周りからいくら言われても、本人が自分事として捉えないと行動は改善できません。対話を通して、部下自身が「気づく」という過程が大事だったようです。
1on1の導入にあたって
ここまで1on1の概要や効果についてご紹介してきました。
職場で試してみたいなと思われた管理職の方もいらっしゃるのではないでしょうか。はじめは、部下全員と毎週時間をとって1on1をするのを負担に感じるかもしれません。しかしながら、部下の成熟度に合わせて成長を支援することで、一人ひとりの能力が高まり、職場において信頼関係を築くための助けになるのなら一考の価値があるのではないでしょうか。
実際に活用してみたいと思われた方には、以下の参考書籍がお勧めです。
『ヤフーの1on1ミーティング』 本間浩輔 ダイヤモンド社 2017年
『シリコンバレー式 最強の育て方』 世古詞一 かんき出版 2017年
さいごに
人材育成は、人を育てることそのものは目的ではありません。
冒頭にふれたように、組織が持続的に成長するために役に立つことが目的です。組織を取り巻く環境が大きく変化している中で、自社が市場で優位性を発揮し続けるためには、組織にも変革が必要です。その成長・変革に貢献することが人材育成の目的です。そのため、10年、20年で続けている人材育成施策も組織の成長に役に立っていない場合は、見直す必要があります。
最近では、人材育成の手法そして新しい施策を検討する場合もには「多くの企業で導入して効果がありそうだから導入する」ということではなく、自組織の成長に貢献するのかという観点は忘れないようにすることが大切です。
今回は、部下育成に悩む人事部門や職場のマネジメントを担う、多くの管理職の方の一助となればと思い、1on1ミーティングをご紹介しました。効果的な運用方法は参考書籍にも載っていますが、必ずしも形式が決まっているわけではありません。自組織、あるいは自職場で活用する場合は、どのように運用するのが、効果的かを模索をしながら進めていくことをお勧めします。