組織や職場の持つポジティブなエネルギーを高めるリーダーシップ開発のポイントとは

多様な働き方やWell-beingへの関心の高まりを受け、管理職に期待される職場メンバーへの接し方が変わってきました。管理職が職場メンバーに対して前向きな影響を与え、メンバーの可能性やパフォーマンスを引き出す存在となるためのポジティブ・リーダーシップ開発をご紹介します。

※本ウェビナーレポートは、2022年11月29日に実施したウェビナー「組織や職場の持つポジティブなエネルギーを高めるリーダーシップ開発のポイントとは」の内容をまとめたものです。

<登壇者情報>
株式会社ビジネスコンサルタント 
コーディネーターコンサルタント 斉藤 丈久

目次
    株式会社ビジネスコンサルタント

    株式会社ビジネスコンサルタント

    組織づくり・人づくりを支援する専門家集団として、組織開発や人材育成に関する情報を発信しています。Well-being経営の共創パートナーを目指し、現場で役立つ知見や実践事例をわかりやすくお届けします。

    はじめに

    現在、多くの組織が従業員のエンゲージメントについてサーベイを行っています。そして、その結果から改善に取り組んでいます。弊社もサーベイをよくご一緒しますが、その中で管理職の方から次のようなお悩みをお聞きします。「組織や人材のエンゲージメントを向上させる方法が分からない」「管理職としてどのように部下に関わればよいのか知りたい」というものです。

    サーベイの結果では、管理職の部下に対する関わり方がよく表れます。管理職自身が改善するための改善点の整理や方法論が必要、などと多くの組織で課題に挙がっています。

    管理職がエナジャイザーになるために必要なこと

    そもそも従業員のエンゲージメントは、どのようにすれば向上するのでしょうか。結論から言えば、職場の上司の関わり方がカギだと考えられます。弊社が2022年度4~9月に16,000名を対象として行った従業員エンゲージメント調査があります。結果を分析すると、向上のためには、「直属上司」との「対話」や「信頼関係」に対する改善策が最も効果的ということがわかりました。このことから「直属上司」である管理職の関わり方が大きく影響するものと考えられます。

    では、上司はどのように関われば良いのでしょうか。効果的と考えられるのが、ポジティブなエネルギーをもたらす「エナジャイザー」という姿です。ここからは、エナジャイザーがどのように職場に作用するのか考えていきたいと思います。

    パフォーマンスとポジティブな発言には関連がある

    ポジティブといっても、パフォーマンスとどのような関係があるのかと感じている方もいるのではないでしょうか。好業績組織と低業績組織との違いを調べた研究があります。最も大きな違いは、好業績組織は「ポジティブなこと」への関心が高いことでした。

    ミシガン大学のキャメロン教授は、さまざまな業績の組織のトップマネジメントチームに対して、チームのコミュニケーションに見られたポジティブ発言とネガティブ発言の比率を調べました。その結果、好業績組織の発言の比率は「5.6:1」でした(図1)。

    図1 好業績組織と低業績組織の違いとは
    『ポジティブ・リーダーシップの理論と実践』 キム・キャメロン教授とマキシオン・ホイール社の原田俊彦氏登壇セミナー内容より 抜粋

    つまり、好業績組織の中ではポジティブな発言がネガティブな発言に比べ5倍多く発言されています。低業績組織や普通な組織と比べると、ポジティブな発言の割合が大きいことが分かります。ここでのポジティブな発言とは、サポーティブで互いを認め合うような声掛けのことです。

    パフォーマンスとコミュニケーションの傾向(ポジティブか、ネガティブか)には明らかな関連があるのだそうです。

    成果を生み出す源となるポジティブなエネルギー

    このポジティブな発言によって高い成果を生み出す源をポジティブエネルギーと言います(図2)。

    図2 ポジティブエネルギーの特徴
    Kim S. Cameron,  2013, 『Practicing Positive Leadership: Tools and Techniques That Create Extraordinary Results』Berrett-Koehler Publishers; 1st editionより抜粋

    私たちが活動したり、何かをつくり出したりするときに源となる力です。この特徴は四つあり、「活気」「覚醒」「バイタリティー」「熱意」です。

    ポジティブなエネルギーを持っている人と接すると、相手は次のように感じます。「この人と仕事をすると、大変なことでも乗り越えられそうな気持ちになる」「この人と話すと、元気をもらえたり、元気がもっと出たりする」「この人と話すと、仕事をする体力がもっと湧いてくる」などです。

    このポジティブなエネルギーはパーソナリティー特性とは相関性が低く、有意な関係性は見られません。双方向的でその過程の行動と関連しますので、学習ができ後天的に開発することができます。

    エナジャイザーとはポジティブなエネルギーを与える人

    このように相手にポジティブなエネルギーを与える人を「エナジャイザー」と言います。「エナジャイザー」は、他者が成長するのを助け、好機を見いだし、感謝の念を表し、謙虚で、他者に自信と自己効力感を与え、バイタリティーと熱意がにじみ出るような人です(図3)。

    図3 エナジャイザーとエナジーヴァンパイア
    Kim S. Cameron, 2013,『Practicing Positive Leadership:Tools and Techniques That Create Extraordinary Results』Berrett-Koehler Publishers; Illustrated editionより抜粋

    反対に、人や組織のエネルギーを奪う人もいます。「エナジーヴァンパイア」と呼びます。自分の信用を確実に得られるようにする、障害を見いだし、批判する、懐疑的で不誠実で、他者が高く評価されるための機会を設けないで、活力が無く、退屈している人です。

    自分の周囲にいる方々を思い浮かべてみてください。「あの人はエナジャイザーかもしれない」と該当する人がいるのではないでしょうか。もしいれば、組織にどのような影響をもたらすのかより理解することができるでしょう。また自分自身が「エナジーヴァンパイア」となっていないか、振り返ってみましょう。

    組織のエンゲージメントを高めるには、「エナジャイザー」をいかに増やすかが重要です。そして、職場や周りの人に活気をもたらす良い影響を与える存在に、管理職がなることです。

    「ポジティブ・リーダーシップ」とは

    ポジティブなコミュニケーションが組織や従業員にもたらす効用について、ポジティブエネルギー、エナジャイザーの存在について確認してきました。では、どのようにすれば、このポジティブなエネルギーを組織の中で最大化できるのでしょうか。ここからは、そのために管理職が発揮すべきリーダーシップについて考えていきます。

    ポジティブエネルギーに注目したリーダーシップ

    ポジティブ・リーダーシップとは一言で言うと、「ポジティブさ」に注目したリーダーシップです。ここでいうポジティブとは、ただ単に明るく前向きといったことを意味するのではありません。未来志向で、肯定的、もともとある強みを生かす、徳の高い状態、といったことを意味します。そしてポジティブ・リーダーシップの中心にある概念はポジティブエネルギーです。組織にとってはエナジャイザーを育成し、活躍できる環境づくりをするリーダーがいることは、持続的な変化を起こし、対応していくうえで重要です。

    ポジティブ・リーダーシップを発揮するSTEP

    では、管理職がポジティブ・リーダーシップを発揮するためには、どのようにすればよいのでしょうか。そのためには、職場の関係者と機会をつくり話し合って進めていく必要があります。次のようなSTEPで進めます。

    「ポジティブなエネルギー(エナジャイザー)を見いだす」

    ポジティブエネルギーを見いだすには、エネルギーの種類を理解し、分けて考える必要があります。エネルギーは次のような分け方で分けられます。「使えば減ってしまうエネルギー」と、「使えば使うほど増えていくエネルギー」です。

    ≫使えば減ってしまうエネルギー
     身体的エネルギー 
     心理的エネルギー
     感情的エネルギー

    ≫使えば使うほど増えていくエネルギー
     関係性エネルギー

    ポジティブな人間関係を通じた関係性エネルギーは使えば使うほど増えていきます。管理職は関係性エネルギーをいかに活用することができるか、他者に身に付けさせることができるかが問われています。

    そのために、社内外の自分が関係する人との相関図を作って”関係性エネルギー”の可視化をします。 “エナジャイザー”の存在を共有することで、組織のポジティブなエネルギーの高さやつながりを確認します。

    「未来(社会や顧客や組織)に対して貢献したいことを共有する」

    未来質問、肯定質問、解決質問を効果的に活用し、未来に対する思いや問題意識を共有します。そして、社会や顧客組織にどのように貢献したいかという貢献目標(パーパス・目的)を見いだします。

    「強みを理解し、相互に生かす方法を考える」

    経験に基づく善い強み(自分も他人もポジティブにする)について話し合いをします。強みを理解し生かすと生産性が高まります。

    このように部下に関わり、話し合う機会を用意することが、ポジティブ・リーダーシップを発揮していく第一歩です。

    仕事のパフォーマンスを高めるための部下への関わり方

    ここからはさらに具体的に、どのように部下と関わるとよいかを考えていきます。また、そのための能力開発のきっかけとなる研修例もご紹介します。

    ポジティブな反応と発言を心掛ける

    上述したように、パフォーマンスとポジティブな発言には関連があります。ポジティブな反応・発言と積極的な関わりを、管理職はするとよいでしょう(図4)。

    図4ポジティブ・ネガティブな発言・アプローチ

    部下が営業職で月の目標を達成した際、あなたはどのような発言をしますか。「今月だけ達成できても続けないと意味がないよ」と危機感をあおる発言は、関係を破壊的にするネガティブなアプローチです。

    ポジティブな発言の例は「おめでとう!すごく頑張ってきたから、達成できたんだよ。来月も達成できるようサポートできることはやるよ」などです。一体感や貢献目標を意識できるような熱心な反応や発言を心掛けることが大切です。お互いを認め合うコミュニケーションを意識しましょう。このような熱心な反応は、部下との関係を築きます。

    見えにくいものを管理職・部下とで共有する

    次に大切なのが、見えにくいものを管理職と部下と共有し合うことです。これは部下の力を引き出す上でも非常に重要なことです。ここでいう見えにくいものとは「人間的強み・らしさ」「経験(成功・失敗)」「人との関係ネットワーク」「大切にしたいこと(価値観)」です。

    お互いに見えにくいものを理解し合うことで、お互いの能力を最大限発揮できるようになります。このような機会が部下との関係性を築き、パフォーマンスを高めます。

    研修プログラム例

    参考まで、管理職を対象にして、ポジティブ・リーダーシップ開発の研修会をする場合の標準的なプログラムをご紹介します(図5)。

    図5 ポジティブ・リーダーシップ開発の研修プログラム例

    ポジティブエネルギーやポジティブリーダーシップについて、一様に理解を進めていくために有効です。プログラムの中ではこれまで述べてきたことを、講義や実習で深く理解していきます。標準的には時間は1日当たり9:00-17:00で3日間、各回の間で職場実践を行います。組織の状況に合わせてカスタマイズをすることが可能です。

    まとめ

    エンゲージメント向上のためには職場の上司と部下の関係性をより良くし対話を増やすことがカギです。そしてその際には、ポジティブなコミュニケーションとパフォーマンスには明らかな関連があることも踏まえ、エナジャイザーとして管理職は部下と接することが効果的です。また、ポジティブエネルギーに関心を持って、エナジャイザーを育成し活躍する環境を整備するリーダーがいることが組織にとって有効です。

    まずは、自組織のエナジャイザーはどこにいるのか、自分自身がヴァンパイアになっていないか、ということから、考え始めてみても良いのではないでしょうか。プログラム詳細や導入のご相談などがございましたら、下記までお気軽にお問い合わせいただけたら幸いです。

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