~コロナ禍を乗り越えるための知恵とエール~ 世界の専門家からのメッセージ⑦ カール=ヘンリク・ロベール博士 ほか

不確実なことに満ちている世界で、企業のリーダー、市民、政治家、医療従事者など皆が動揺しながらも、なんとか踏ん張ろうと努力しています。
BConでは多様な人たちと共に、それぞれの専門性や強みを活かし、力を合わせることで、人類が対処すべき難局を乗り越えていきたいと願っています。

そこで、特に私たちと関わりのある研究者や専門家からその知恵を、そしてエールを送って頂きました。
日本および世界の人々を勇気づける、または活動を方向付ける助けになるメッセージを発信していきます。

ここでは、カール=ヘンリク・ロベール博士、アンデシュ・ヴィークマン氏、カリン・ボーディン氏ら3人の専門家からのメッセージをご紹介します。

目次

    ロベール博士 ほか、3人の専門家からのメッセージ

    最も深刻な問題はコロナウイルスではなく、ことが起きてから対応しようとするリーダーシップのあり方である。
    現在、気候変動の問題はコロナウイルスのせいで後回しになっているが、根底にある原因やつながり、運用上の全体的な解決策をなおざりにするのは危険である。

    我々にとって最大の問題は、コロナによるパンデミックや気候変動ではありません。種の絶滅、環境に入り込んだ毒性物質、貧困、あるいは自然界への抗生物質の拡散でもありません。何か大変なことが起きてから、それが我々の組織や社会の基本的な設計にどう関係しているのかを理解することもせずに対応しようと騒ぐ世間やリーダーたち、それが一番深刻な問題です。結果的に社会や生態系にあまりにも大きなインパクトが広がってしまい、起きている不具合を別々に切り離して対処することができなくなっています。対処するには、システム指向のアプローチを使用して、不具合の根っこの部分から手当てしなくてはなりません。実をいうと、人間社会は複雑なシステムを上手に扱うのが苦手なのです。上下の序列で分かれてそのそれぞれがサイロ化した縦社会ですから、その全体を理解できる、あるいは責任をもって統制できる人はほとんどいません。

    人類は技術至上主義に凝り固まったシステムを作り上げ、それが自然界の機能にどのような影響を与えるかも考えずに自然を従わせようとしてきました。その結果、例えばプラネタリー・バウンダリー(ロックストロームら、2009年)のように、様々な形で表現されている生態学的な窮乏が生み出されました。プラネタリー・バウンダリーとは、そこを越えると自然が文明を支えることができなくなる境界(バウンダリー)を示すモデルで、大気中の二酸化炭素濃度、種の絶滅率、世界中の海洋への窒素の流入などの境界は、すでに激しく浸食されています。我々はすでにいくつかの境界を越えており、このままでは残りの境界もいずれ越えてしまうでしょう。それ以外にも、現在自然界に蓄積している何千種類もの化学物質のように、まだ特定あるいは数値化されていない境界があります。人間の文明に脅威となった化学物質の一例が、フロンです。世に出た時、フロンには毒性がなく生物の体内組織に蓄積もしない、とさかんに言われました。その時点で、事態はすでに不幸な結末を迎えたも同然だったのです。

    怪我や治療の経過、救急救命を研究するには、根本的な原因の分析が当然必要なはずです。それなのに原因に対処せず対症療法を重視する今の流れは、過剰なカロリーの摂取という根本的な肥満の原因には目を向けず、肥満によって起こる肝障害、血管系の病気、糖尿病、心不全、狭心症だけを治療しているのと同じです。すでに深刻な症状が現れている場合には、原因と症状の両方に取り組まなくてはなりません。

    先の肥満の例と同じで、サステイナビリティに関連する数多くの問題は互いに関連し合っていますが、その原因は人間がサステイナビリティの境界条件を侵しているからです。幸いにも、その事をシステム理論とデザイン・サイエンスの最先端の研究が実証してくれました。そのおかげで、持続可能な開発を達成するためのはるかに優れた条件が新たに作り出され、自然に論理的な結論が導き出されました。つまり、複数のセクターをフレームワークの原則に合わせてモデル化したマルチ・セクター型の戦略プランニングが可能になったのです。これにより、経済的に無理なく段階的な進捗に取り組むことができるようになり、例えば国連のSDGsのような意思決定、計測、ならびにコミュニケーションをサポートする様々な手法が生み出されています。SDGsについては、この後詳しく述べたいと思います。

    研究の革新的な成果が行動をどのように変えることができるのかを示しているのが、がんの事例です。がんの根本的な原因がわかる以前には、医師は様々な症状が互いに関連し合って現れていることを理解しないまま対症療法を行っていました。患者は悪化し続ける貧血、疼痛、倦怠感、臓器不全、衰弱、しこりといった「漏斗」に深く深く落ち込んでいき、病巣が広がると死亡しました。その後、がんは単クローン性の病であることが発見されました。つまり、体内に生まれた単一のがん幹細胞が形質転換して広がっていく仕組みを持つということです。連なった因果関係の大元にある根本的な原因が判明すると、がん治療のフレームワークが突然見えてきました。細胞病理学者、放射線科医、薬理学者、外科医、免疫学者、看護師、カウンセラーなどの各分野の医療専門家が、それぞれの「サイロ」に貯めこまれていた知識を開花させ、協力してがん治療のための世界共通の境界条件を2つ実現しました。一つは一番新しいがん細胞を死滅させて再発できないようにすること、もう一つは患者を死なせないことです。現在、がん患者の50%以上は治療で回復しており、その割合は向上し続けています。

    現在、我々の社会は持続不可能という死に至る病を患っており、その容態は日に日に悪化しています。そして、がんの治療法の境界条件を見つける前と同じように、根本的な病因がますます病を重くしているというのにそちらの手当てはせず、現れる症状だけに対処しようとしています。つまり、我々が見ているのは、病の原因から連鎖的に症状が現れる因果関係の末端だけで、しかも痛みが耐えがたくなり、高い治療費がかかる状態になるまでは治療を始めることもしません。「冗談じゃない!フロンがオゾン層を破壊するとか、津波が原発事故を引き起こすとか、物質とエネルギーが一直線に流れる直線型の生産が大切な生態系と気候をめちゃくちゃにするとか、あるいは権力構造が偏っているせいで人口が急増し、経済格差や不衛生な生活環境、パンデミックを引き起こすとか、そんなこと予想できる人がいますか?」

    人類が直面する多くの課題に立ち向かうために、世界中の国々が国連の持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいます。SDGsとは、サステイナビリティを17の重要な分野に分けて語るよく考えられたストーリーで、目指している方向は正しいのですが、システム的なアプローチが抜けています。要するに、問題の根本的な原因ははっきりと説明されていないのです。そのため、組織にとっては全部のSDGsを自身の業務や活動の目標に取り込むことは不可能です。そこで、事業や活動に一番関わりがあるはずの目標を無視したり、「選択」したりします。これでは目指していたものを達成するチャンスは失われます。なぜなら、SDGsが目指しているのは、将来のために世界中が力を合わせて取り組むことだからです。段階的なプロセスを用いてプライオリティを決めることを学んだ組織は、取り組みをスムーズに進めることができます。自らの戦略構造をSDGs全体と照らし合わせることで、自身の目標、課題、機会やプライオリティに何か足りないものがないか確認することができます。世界的なムーブメントの一翼を担うことができるのです。SDGsはそれを助けてくれます。

    戦略的サステイナビリティに関する研究課題も、がんのケースと同じです。政治家、研究者、ビジネス、市民が手を取り合い、それぞれの「サイロ」から関連する知見を持ち寄って、メタ・レベルの「持続不可能な」境界条件を見つけ出さなくてはなりません。そのためには、がんの治療法と同様に、問題の根本的な原因に取り組むに当たっての境界条件が確かな科学に基づいていること、日常の活動に結びつけられること、誰もが理解できる共通の分類方法で示されていることが必要です。

    近年、研究者や意思決定者の国を超えた連携により、以下のような複雑なシステムや境界条件の理解が進んでいます。持続可能な社会づくりを目指す我々の取り組みの手引きになってくれるに違いありません。描かれる未来像は、建設的でポジティブです。そして希望を感じさせてくれます。

    それは実現できる

    サステイナビリティの境界条件を満たす魅力的な世界は、技術的にも文化的にも実現可能です。右派・左派両方の政治リーダーもビジネス・リーダーも、症状についてイデオロギーに偏った議論をするのではなく、根本原因の理解が広がるような議論を促します。それによりダメージがシステム的に増大しない世界を作ることができるのです。

    それは思っているより容易である

    政党やビジネスのバリューチェーンを越えて創造的に協調することができれば、思っているより容易に持続可能な世界を築くことができます。そのためには、元から基本的な社会・経済要件を守るように設計された確実な境界条件を適用しなくてはなりません。夢や価値観、文化的表現が両極端であっても、境界条件に適合すればどちらも持続可能であることは、経験的に明らかになっています。ただし、根本的な誤解に基づくものは、持続できません。

    段階的に行動しよう

    投資に関する決断は、特にその投資が長年にわたり貴重な資源に関係している場合、境界条件に関連して当然生じる疑問をあらかじめ検討してから行わなくてはなりません。「この投資が経済的かつ技術的に機能して、地域のセクターやバリューチェーンの業者が一足飛びに基本境界条件の方向へ向かうことはありうるだろうか?」 この問いは、深刻な問題を解決する際にも検討されるべきです。そうすることで、後々の行動のための条件が改善されるからです。

    境界条件

    研究者との連携により、全世界の何百ものビジネスや地方自治体が、それぞれに合った目標に基づき、境界条件と戦略計画の策定を学んできました。その中では、スマートで段階的な投資として計画されたシステム・ソリューションが想定外の失敗を減らし経済性を向上させることができる、という実証結果も示されています。それらのビジネスや地方自治体は、目標を達成した時にサステイナビリティの境界条件が満たされるよう、自分たちの目標を抜本的に見直すことを受け入れています。したがって今後以下の項目に加担することはないでしょう。

    1. 地殻から掘り出した物質(例:大気中の化石炭素、土壌や人体内の重金属、海洋中のリン)の濃度の継続的な増加

      この設計上の欠陥は気候変動を引き起こし、そのせいで人が住める領域が減り、人口密度の増加につながっています。人間が密集すると食料・水道システムがそのニーズを満たせなくなり、全世界の貧困問題に多大な影響を及ぼします。資源開発は、私たちが現在経験しているパンデミックへの対応や、新たなパンデミックの発生防止をさらに難しくしています。病原体が動物からヒトに感染するようになっているからです。現在、EU内では、コロナのパンデミックのために気候変動への取り組みが下火になるのではと懸念されています。もちろん、逆のことが起こるべきです。

    2. 人間社会が作り出した物質(例:大気中のフロン、土壌や食品に含まれるダイオキシンや内分泌かく乱物質、海洋の窒素酸化物)の濃度の継続的な増加

      内分泌かく乱物質は免疫系に悪影響を与えるもので、パンデミックを助長する働きをするのは明らかです。土地や水中に含まれる抗生物質の濃度も高まりつつあり、抗生物質に耐性を持つ菌類を増加させています。それは、将来さらに深刻なパンデミックが起こる危険性を増大させます。

    3. 自然環境の物理的な劣化(例:森林破壊、耕作可能な土地の舗装、乱獲、不適切な土地利用計画)の継続的な増加

      節操のない森林伐採や農法も物理的な劣化を引き起こします。これら全てが気候変動を悪化させ、いずれ発生する次のパンデミックに対する耐性も含めて、レジリエンス(強靭性)をさらに低下させています。

    4. 信頼を弱める権力構造

      強い社会システムは、基本的に人間同士の信頼感と社会制度に対する信頼で成り立っています。調査によると、権力を持つ者がその権力を乱用していると人々が思う時、信頼は損なわれます。これは、特に信頼感を作り出すために不可欠な5つの要素、すなわち健康、影響力、能力、公平性、意味・意義を、権力構造が妨げた場合に顕著です。例えば、偏った富の再分配の方針は人種差別や汚職につながり、貧困層が不衛生な生活環境に置かれて病気や感染のリスクが発生します。ニワトリ、シチメンチョウ、豚肉を生産する全世界の大規模な家畜加工工場やアジアの生鮮市場が、感染の発生に大きな役割を果たしている、と巷では盛んに言われています。

    簡単に言うと、気候変動とCOVID-19は、社会の設計そのものが社会と環境のサステイナビリティの境界条件を侵害していることから生じる懸念事項と影響のほんの一部に過ぎません。つまり、社会設計の欠陥によって鉱工業や社会的生産から排出される汚染物質の濃度が上昇し続けると、物理的な劣化は進み、人間同士の信頼感や社会制度への信頼をむしばむ権力構造が定着してしまいます。

    我々の経済システムは完全に人間が作ったものです。100年近くにわたって最優先されてきた政治目標は、製品とサービスを最大限に増大させることであり、GDPによって数値化されました。GDPとは、自然や社会の劣化を考慮せず、資源の流れだけに高い価値を置いて国家の成功を測定する指標です。これは誰もが貧しく、経済活動の成長を刺激することだけが重要であった過去においては、理にかなっていました。しかし、いくつかの資源の流れがサステイナビリティの境界条件を侵害するほど巨大になっている今では、もう通用しません。それらの資源はすでにプラネタリー・バウンダリーを越えており、人間の文明を支え切れなくなりつつあります。抑えなくてはならない破壊的な流れと、サステイナビリティを目指して大きくしなければならない流れを区別する洗練された経済システムを、今こそ作り上げなくてはなりません。さらに、将来を損なうリスクを減らすためには、長期投資を不当に扱う割引やボーナス制度も廃止しなければなりません。株主の短期の収益率を単純に最大化する、という今の株式会社の目的に関する条項をさらに進化させて、株式会社を統制する法律改正を行う必要があることも明らかです。

    根本的な原因を理解して対応することは、対症療法よりも難しいと言われることがあります。最初から正しく実行することは確かに楽ではありませんが、成果を出すにはまず、複雑なシステムの中で指針として役立つ安定した境界条件が必要です。チェスで例えると、簡単にチャンピオンになることはできないが、チェックメイトを理解していなければそもそも練習を始めることさえできない、という意味です。研究により、全てのセクターが協力して境界条件を守る様々な将来像をモデル化できることは実証されています。さらに、段階的なプロセスで進むことで当初の経済リスクが減り、当事者がスマートなやり方を新たに見つける可能性を高めることによって、目標間で発生する矛盾が解消される可能性も大きくなります。将来のシナリオ展開のために複数のセクターにまたがるアプローチで取り組むことは、既存のテクノロジーで可能であるだけでなく、1つのセクターだけで問題を解決しようとするよりも簡単でコスト効率に優れていることも証明されています。価値観や文化の違いは、イノベーションを育む土壌になります。医療セクターががんの治癒と進むべき方向の境界条件を満たす様々なシナリオを考え出した時と同じように、サステイナビリティの目標や取り組み、それらを実現する方法について議論することが急に心躍るものに感じられるようになるでしょう。それは、知識不足や誤解が原因で起こる対立とも、当事者が明確な定義や数値化できる指標のないストーリーを選んで境界条件を作るのをあきらめる状況とも違う、全く別の経験です。

    コロナのパンデミックに直面した今回の政府の行動は、流通を維持し、社会の基本機能を止めないようにする緊急支援措置が含まれています。それらは必要なものですし、間違ってはいません。たとえ目の前の危機が終わったとしても、追加の資本の投入と支援が今後も長く必要となるでしょう。それに合わせて、我々は社会の長期的な目標を再定義しなければなりません。持続可能な社会のために資本を割り当て、協力体制を取り入れるチャンスです。将来の危機やさらに深刻化する大災害を回避するために、今こそ成し遂げなくてはなりません。経済のインセンティブ構造は、サステイナビリティの目標や境界条件と調和した活動が優先されるよう、大元から再構築しなくてはなりません。研究・教育機関は再編して、システムに関する理解を深め、物事が互いにどのように関連し合っているかを学ぶ必要があります。特に、経済学のプログラムは大幅に改変しなければなりません。

    我々には、自国を持続可能にするための明確な目標と、現代の諸悪の根源に取り組む公的な支援を配分するための具体的な下位目標、ならびに体系的なアプローチが必要です。そういったものがないと、人類はCOVID-19に打ち勝つことだけに全力を注いでしまう危険性があります。それでは、このコロナ禍から何も得ることなく、わずか数週間前の「気候不安」を抱えていた頃と同じ社会に戻るだけになってしまいます。

    ◆メッセージの英文は こちらからご覧になれます

    メッセージ者紹介

    カール=ヘンリク・ロベール博士:戦略的サステナビリティ教授
    ブレーキンゲ工科大学教授。持続可能な社会の姿を想定し、その姿から現在を振り返って何をすれば良いか考える「バックキャスティング」の考え方の発案者。2000年に地球環境問題のノーベル賞といわれる「ブループラネット賞」を受賞。

    アンデシュ・ヴィークマン氏:Climate-KIC会長

    カリン・ボーディン氏:Polarbrod会長、Stegvis*会長

    *戦略的で持続可能な開発のためのビジネス・ネットワーク

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