次世代リーダーに求められる能力 ラーニングアジリティとは

ビジネスを取り巻く環境が、これまで以上に急速に、複雑に変化する時代を迎えています。将来を担う「次世代リーダー」(経営幹部候補者)に求められる力も変化しているのではないでしょうか。

これからのリーダーとなる人材が身につけるべき能力として注目しておきたいのが「ラーニングアジリティ」です。激しい変化や経験のない状況に対して、素早く、柔軟に適応し組織を導くリーダーには欠かすことのできない力といえます。

このコラムでは、「ラーニングアジリティ」について解説し、向上するためのポイントをご紹介します。

  • 次世代リーダーに求められる能力は「ラーニングアジリティ」
  • ラーニングアジリティとは、新しい環境や経験から素早く学び、変化や未知の問題に際してその知見を応用することができる能力
  • 実践の機会を確保するため、「他流試合」となる外部研修の活用が有効
目次

    リーダーに求められる資質が変わる

    デジタル化の広まりや、持続可能性に配慮した経営への転換などによって、ビジネスの前提が大きく変化しています。さまざまな要因が複雑に絡み合い予測困難な変化がもたらされる時代にあって、過去の成功経験や既存の知識だけに基づいた経営は、事業が進むべき方向を見誤るリスクがあります。

    これからの企業経営を担う次世代リーダーには、環境の変化に柔軟に適応し、未知の問題に対しても適切な判断を下す力がこれまで以上に強く求められることになります。

    そして次世代リーダーに求められる力が変化しつつある今、従来のリーダーをロールモデルとした育成方法についても見直す時期に来ているといえそうです。

    次世代リーダーに必要な「ラーニングアジリティ」とは?

    これからのリーダー育成において、注目したい能力の1つが「ラーニングアジリティ(Learning Agility 学習の俊敏性)」です。

    ラーニングアジリティとは、新しい環境や経験から素早く学び、変化や未知の問題に際してその知見を応用することができる能力です。過去に経験したことがない状況においても柔軟に解決策を見出すことが求められる、次世代リーダーに必須の能力といえます。

    ラーニングアジリティに関する研究者であるコロンビア大学教授、ウォーナー・バーク博士の著書『Learning Agility: The Key to Leader Potential』(David F. Hoff, W. Warner Burke)では、ラーニングアジリティを構成する9つの特性を以下のように定義しています。

    ラーニングアジリティを構成する9つの特性

    1. 柔軟性
      新しいアイデアを積極的に取り入れ、新しいソリューションを提案する
    2. スピード
      アイデアを素早く実行に移して、うまく機能していないものには見切りをつけ、見込みのあるものは早急に次の段階に進める
    3. 実験
      新しい行動(アプローチ、アイデア)を試し、効果のあるものを見極める
    4. パフォーマンス・リスクテイキング
      挑戦の機会を提供する新しい活動(タスク、業務担当、役割)を求める
    5. 対人関係でのリスクテイキング
      他者との違いについて話し合い、学びと変革につなげる
    6. コラボレーション
      他者と協働する方法を見つけ、新たな学習の機会を創出する
    7. 情報収集
      さまざまな手段を駆使して、専門知識を最新の状態に保つ
    8. フィードバックの探求
      自身のアイデアや全体的なパフォーマンスについて、他者からのフィードバックを積極的に求める
    9. 振り返り
      より力を発揮できるよう、自身のパフォーマンスを評価する

    「他流試合」がラーニングアジリティ向上に役立つ!

    リーダー育成には、組織内で行うジョブローテーションやチャレンジングな仕事のアサインといった育成方法があります。しかしラーニングアジリティの向上を効果的に行うためには、いつもの職場を離れてさまざまな業種・業界の⼈々とディスカッションを⾏い、実践的な課題に取り組むような研修、つまり「他流試合」が効果的です。

    職場を離れた環境であれば、失敗しても実際の業績に影響を及ぼすリスクがありません。また実際の職場に比べ、研修参加者同士の利害関係はごく小さいため、新しい行動を試すことや他者からのフィードバックを得ることに対して、ポジティブになることができるからです。

    なぜ、「他流試合」がラーニングアジリティの向上に効果的なのか?

    • 新しいアイデアや視点に触れ、柔軟性を発揮する機会があるから
      自分とは異なるバックグラウンド(経験や経歴)を持つ他者の知識、視点に触れる機会にあふれており、自分の考え方に固執せず、新しいアイデアを取り入れて、新たな解決策を模索する機会になる。
    • 多様な問題解決の実践機会があるから
      限られた時間の中で進んでいくため、スピーディに他者と協力しながら新しいアイデアをまとめて、実行に落としていくトレーニングになる。
    • 協働による学習の機会があるから
      他者と異なる意見を持っていても、違いについて前向きに話し合い、協働する方法を試すことができる。
    • 他者からのフィードバックと改善の機会を得られるから
      役職が上がるにつれ、他者から指摘を受ける機会は少なくなりがちである。しかし、他流試合では他の参加者からフィードバックを受ける機会を設けやすい。他者からの指摘を通して自己理解が深まり、改善と成長につながる。

    他流試合は相互援助型トレーニングの場であり、多様な参加者と協働し実践的な課題に取り組み、試行錯誤と振り返りを繰り返すことで、ラーニングアジリティを高めることができます。

    もっとも、他流試合が効果的で質の高い人材育成の場であるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。

    「質の高い他流試合」の条件とは?

    • 明確な研修の目的設定
      研修の目的が明確であり、何を学び、どのようなスキルや知識を得るべきかが具体的に示されていること。
    • 多様な視点の学び
      参加者が所属する組織の業種や業界、地域や企業規模などに多様性があり、異なる経歴や視点を持つ参加者と交流し、新たな視点を学ぶことができること。
    • 自己への気づきを促進する場づくり
      参加者が新たな視点や自己への気づきを促進するために適した環境ができていること。
    • 心理的安全性の確保
      相互援助型で、参加者が安心して、自由に意見を表明できる環境を提供していること。

    こうした条件を満たす環境を自社内で整えるのは容易ではありません。他流試合を成立させるためには業種・業界の異なる複数企業にコンタクトし、参加者を集める調整作業が必須です。また参加者の気づきや新しい行動を促し、活発なディスカッションが行われる場をつくるため、講師には高い専門性と多くのノウハウが求められます。

    そこで検討したいのが、研修サービスや公開講座の活用です。参加者の調整や会場手配などにかかる負担を抑えつつ、専門講師が関わることで他流試合での経験をより充実したものとし、自社の将来を担う人材のラーニングアジリティ向上を図ることが期待できます。

    まとめ

    このコラムでは、次世代リーダーに求められている能力の1つが、ラーニングアジリティ(新しい環境や経験から素早く学び、変化や未知の問題に際してその知見を応用することができる能力)であること、
    そしてラーニングアジリティの向上には、9つの特性を実践的な方法で磨く他流試合が効果的であることをご紹介しました。

    次世代リーダーに求められる能力の育成を効率的・効果的に進め、継続的な人材育成施策を展開するため、目的や状況に応じた方法を柔軟に取り入れていきたいところです。

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