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評価と対話が組織を変える ― エンゲージメントが高まるマネジメントトレーニングとは ―
はじめに なぜ今、マネジメントトレーニングなのか
― エンゲージメント施策や評価制度が現場で機能しにくい背景と、マネジメントの質に求められる視点を整理します。
近年、多くの企業において「従業員エンゲージメント」は、重要な経営テーマとして位置づけられています。当社が実施した約9万人を対象とするエンゲージメント調査においても、「将来のキャリアが不透明である」「収入や人事処遇に納得できていない」「職場での対話が形骸化している」といった課題が、業種や規模を問わず広く確認されています。
エンゲージメント向上の施策として、処遇改善や制度改定に注目が集まりがちですが、それだけで持続的な成果を上げることは容易ではありません。日々の仕事の中で、社員一人ひとりが「組織に期待されている」「自分の仕事が組織の成果につながっている」と実感できているかどうか。その積み重ねこそが、エンゲージメントの土台となります。
その鍵を握るのが、職場におけるマネジメントの質です。とりわけ、目標設定・日々の関わり・評価・フィードバックといった一連のマネジメントサイクルが、どれだけ一貫したストーリーとして運用されているかが問われています。本レポートでは、マネジメントサイクルをアップデートすることで、どのように対話が生まれ、エンゲージメント向上につながっていくのかを整理していきます。
評価・対話・育成をつなぐマネジメントサイクルの基本設計
― マネジメントサイクルとは何かを整理し、その運用を支えるマネジメントトレーニングが必要とされる理由を説明します。
マネジメントサイクルとは、現状把握(R)を起点に、目標設定(P)、日々の行動・実行(D)、人事評価(C)、フィードバック・育成(A)へと連なる、一連のマネジメント活動の流れを指します。本来このサイクルは、評価や処遇のためだけに存在するものではなく、組織の方針と個人の行動・成長を結びつけるための枠組みです。

しかし多くの職場では、このサイクルが分断された形で運用されています。期初に目標を設定したものの、その後の進捗確認や対話が十分に行われないまま時間が過ぎ、評価の時期になって初めて結果を振り返る。評価で明らかになった課題や期待が、次の育成や行動改善につながらず、そのまま次年度に持ち越されてしまう――こうした状態では、マネジメントサイクルは形式的に回っているだけで、実質的には機能しているとは言えません。
ここで問われるのが、「マネジメントサイクルを、誰が、どのような意図をもって回しているのか」という点です。制度としてサイクルが存在していても、管理職自身がその意味やつながりを理解し、主体的に運用できていなければ、目標設定や評価は単発のイベントにとどまってしまいます。
こうした背景から必要とされているのが、マネジメントトレーニングです。マネジメントトレーニングとは、一般的な管理職研修のようにスキルや知識を一方的に学ぶ場ではなく、マネジメントサイクルを「人と組織を成長させるストーリー」として捉え直し、職場で実際に運用できる力を養う取り組みを指します。
マネジメントトレーニングを通じて、管理職が「なぜ今この目標を設定するのか」「この評価を次にどうつなげるのか」「日々の関わりの中で何を対話すべきなのか」を言語化できるようになることで、マネジメントサイクルは初めて一貫した流れとして機能し始めます。ここから先の章では、このサイクルがエンゲージメントとどのようにつながっているのかを、さらに掘り下げていきます。
対話のあり方がエンゲージメントを大きく左右する
― 目標設定や評価の場面での対話が、メンバーの納得感や貢献意欲にどのように影響するのかを確認します。
BConでは、従業員エンゲージメントを次のように定義しています。
所属する組織や一緒に働く人々に対して愛着心を感じ、貢献意欲をもって仕事に熱中・没頭して取り組んでいる状態
メンバーに対するマネジャーの関わり方は、エンゲージメントの感じ方に大きな影響を与えます。目標設定や評価、日々の関わり方がどのように行われているかによって、同じ組織・同じ制度のもとでも、エンゲージメントの状態には差が生まれます。

特に重要なのが、マネジメントを通じてどのような対話が行われているかという点です。方針や期待が一方的に伝えられるだけなのか、それとも背景や意図が共有され、双方向のやり取りが行われているのか。こうした対話のあり方の違いが、仕事への納得感や「自分の仕事として受け止められている感覚」に影響していきます。
では、その影響は職場の中でどのような形で表れているのでしょうか。次に、約9万人を対象としたエンゲージメントサーベイの結果をもとに、「対話しているつもり」と「対話できている実感」の差が、エンゲージメントにどのように表れているのかを確認していきます。
サーベイが示す本当の課題は「対話の実感」の差
前段では、対話のあり方がエンゲージメントの感じ方に影響することを指摘しました。では、その影響は実際の職場ではどのように表れているのでしょうか。
当社が実施しているエンゲージメントサーベイ(E21)は、7分野21項目から組織・職場・仕事に対するエンゲージメント状態を把握するものです。約9万人の回答結果を分析すると、理念共感や仕事への貢献実感、上司支援などは比較的高いスコアを示す一方で、
といった項目では、低いスコアが目立ちました。
特に注目すべきは「対話」に関する結果です。全体平均では一定水準にあるものの、エンゲージメントが高い層と低い層を比較すると、対話の実感に大きな差が見られました。

ここでいう「対話の実感」とは、単に面談や1on1の機会が設けられているかどうかではありません。自分の考えや違和感、不安を安心して口にできているか。話した内容が受け止められ、次の行動や目標、役割分担に反映されていると感じられるか。そうした対話の“質”に関わる感覚を指しています。
定期的に面談が行われていても、「評価への影響が気になって言えない」「話しても結局何も変わらない」と感じていれば、その人にとって対話は実質的に機能していません。一方で、短い会話であっても、自分の意見や状況が理解され、次の判断や自分への何らかの支援につながったと実感できれば、対話は確かに存在していると言えます。
「平均的には対話ができている」状態であっても、職場や個人によって、対話が意味のあるものとして受け止められているかどうかには大きな違いがあります。このばらつきこそが、エンゲージメントの高低を分ける重要な要因なのです。
正解のない時代に求められる「対話起点」のマネジメント
―これまでのマネジメントと対話を重視するマネジメントという二つの視点から、対話がどのように位置づけられているのかを整理します。ここでは、マネジメントの良し悪しを論じるのではなく、前提となる状況や捉え方の違いとして二つの視点を見ていきます。
一つは、課題が比較的明確で、正解が想定しやすい状況を前提としたマネジメントの視点です。この場合、指示や役割分担を明確にし、計画どおりに遂行することが重視されます。これまで多くの組織で成果を上げてきた、重要なマネジメントの考え方でもあります。
もう一つが、課題そのものが流動的で、試行錯誤を通じて方向性を見いだしていく状況を前提としたマネジメントの視点です。このような場面では、一方的に答えを示すのではなく、対話を通じて考えをすり合わせ、知恵を生み出していく関わり方が求められます。
そのため、価値観を共有し、知恵を生み出す「対話型マネジメント」が不可欠となります。この対話を支える基盤が、心理的安全性です。心理的安全性とは、「このチームでは対人リスクを取っても安全だ」とメンバーが感じられている状態を指します。
ただし、心理的安全性は一朝一夕に築けるものではありません。日々の関わりの積み重ねの中で、発言が尊重され、失敗やバッドニュースが躊躇することなく共有される経験を通じて、少しずつ醸成されていきます。たとえば、うまくいかなかった取り組みや想定外の問題が率直に共有され、その背景や学びが対話を通じて整理されることで、「ここでは本音を話しても大丈夫だ」という感覚が職場に蓄積されていきます。こうした心理的安全性は、特別な施策によって生まれるものではなく、日々のマネジメントの積み重ねの中で育まれていきます。だからこそ次に問われるのは、そのマネジメントをどのように回していくかです。
マネジメントサイクルを「一貫したストーリー」にアップデートする
―マネジメントサイクルをアップデートするとはどういうことか、整理します。
ここで言うマネジメントサイクルのアップデートとは、従来のやり方を否定することではありません。エンゲージメントや対話の手応えを変えていくために、マネジメントサイクルを「どう回すか」に目を向け直すことです。その視点に立ち、RPDCAを一連のストーリーとして再設計していきます。

現状把握を起点に、なぜこの目標に取り組むのかを言語化し、日々の行動の中で小さなPDCAを回す。そして評価とフィードバックを次の成長につなげていく。この循環が機能し始めたとき、マネジメントは単なる管理から、対話を通じた育成へと変わります。
目標設定では、「なぜこの目標なのか」が共有され、メンバーが腹落ちしてコミットできているかが問われます。日々の関わりでは、画一的な指示ではなく、状況や成熟度に応じた問いかけや支援が求められます。
評価とフィードバックの局面では、結果確認や処遇決定にとどまらず、これまでの取り組みを振り返り、次にどのような成長や行動につなげるのかを共有することが重要です。この一貫性が、対話の質を高め、エンゲージメントを支えます。こうしたマネジメントサイクルを現場で機能させていくためには、管理職一人ひとりの理解やスキルだけでなく、組織としての支え方、施策も問われてきます。
職場での実践につなげる「横×縦」のアプローチ
マネジメントトレーニングというと、階層別研修などの「横のアプローチ」を思い浮かべる企業も多いでしょう。共通言語や原理原則をそろえるうえで、横のアプローチは有効です。

一方で、横のアプローチだけでは、自分たちの職場が抱える具体的な課題に踏み込めないという限界もあります。そこで重要になるのが、職場単位で取り組む「縦のアプローチ」です。職場の実情を前提に対話を行うことで、方針の意図や役割分担が具体化され、行動につながりやすくなります。
まず共通の考え方をそろえ、そのうえで各職場で試し、振り返る。こうした行き来を重ねることが、現場のマネジメントサイクルの質を高めていくうえで重要です。
仕組みとして定着させる4つのマネジメントトレーニング施策
マネジメントトレーニングを一過性の施策で終わらせず、職場に定着させていくためには、縦と横のアプローチを組み合わせ、マネジメントサイクルそのものを継続的に回していく仕組みが欠かせません。ここでは、当社が重視している4つのアプローチを紹介します。

アプローチ① 階層別マネジメントトレーニング(横のアプローチ)
経営幹部・管理職などの階層別に実施する、横断型のマネジメントトレーニングです。
マネジメントサイクルの全体像や人事評価の目的・原理原則を理解し、「なぜ目標設定や評価を行うのか」「何のために育成に取り組むのか」といった本質的な問いを共有します。
評価・育成・目標設定の基本原則を体系的に学ぶことで、評価のばらつきを防ぎ、組織としての共通認識を形成します。マネジメントの基盤を整え、文化として定着させていくための土台となるアプローチです。
【実施目安】
・1回あたり:半日〜1日程度
・期間 :複数回実施を前提とし、2〜3年程度かけて定着を図るケースが多い
アプローチ② 職場別の実践ミーティング(縦のアプローチ)
事業部・部署・チームなど職場単位で取り組む、実践型のミーティングプログラムです。
方針の意図共有、目標の具体化、役割分担、日々の関わり方の振り返りを継続的に行います。
職場の実情に即したテーマを扱うことで、方針の形骸化を防ぎ、メンバー一人ひとりの納得感とコミットメントを高めます。対話を通じて相互理解を深め、変革のスピードを高めながら、自立した職場づくりを促進します。
【実施目安】
・1回あたり:3時間程度
・期間 :約6か月間のサイクルで継続実施
アプローチ③ メンバー向け自己開発トレーニング(セルフマネジメント強化)
一般職・メンバー層を対象に、自身のキャリアや成果を主体的に管理する力を高めるためのトレーニングです。
自分の成果や工夫を整理し、上司に適切に伝える力を養います。また、評価制度の理解を通じて、期待役割と自分の行動を結びつける視点を身につけます。
受け身で評価を待つのではなく、自ら対話を通じて理解を深めていく姿勢を育成し、納得感のある評価とエンゲージメント向上につなげます。
【実施目安】
・1回あたり:2時間程度
・実施形態:単発または複数回(集合研修・動画併用など柔軟に設計)
アプローチ④ 管理職向け人間理解トレーニング(内省と関係性強化)
管理職を対象に、自身の価値観や思考傾向、部下との関わり方を見つめ直し、人間理解を深めるためのトレーニングです。
マネジメントスキルや手法にとどまらず、「自分はどのような前提で人を見ているのか」「どのような姿勢で部下と向き合っているのか」といった“あり方”に焦点を当てます。
評価は原理原則に基づいて行いながらも、その後の育成や支援は一人ひとりに応じて柔軟に変えていくことが重要です。本アプローチでは、部下の特性や状況を理解したうえで、関わり方を調整できる力を養います。
自己理解と他者理解を深めることで、信頼関係と心理的安全性の高い職場づくりを支えます。
おわりに 対話の質を高めることが、職場を変える
エンゲージメント向上の鍵は、特別な施策ではなく、マネジメントサイクルの各局面で交わされる対話の質にあります。目標設定、日々の関わり、評価・フィードバック。その一つひとつの対話が積み重なり、職場の関係性をつくります。
対話の質を高めるために必要なのは、管理職個人のコミュニケーションスキルだけではありません。マネジメントサイクル全体をストーリーとして捉え、対話が生まれる前提条件を整えたうえで、そのサイクルを回し続けていくことが不可欠です。
マネジメントトレーニングは、そのための土台づくりです。階層別の研修で考え方の土台をそろえ、職場単位の実践でそれを現場に落とし込み、メンバー自身の主体性を高め、さらに管理職の人間理解を深めていく。こうした取り組みを組み合わせていくことで、マネジメントサイクルは少しずつ「制度に従って回すもの」から、「現場が主体的に回すもの」へと変わっていきます。そうすると、方針の意図が正しく伝わり、目標に納得して取り組めるようになり、日常的な対話も自然と増えていきます。その積み重ねが、公平感のある評価や人材育成、そしてエンゲージメント向上につながっていくはずです。
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