【現場任せから脱却】新人・若手が定着する「OJTトレーナー研修」

新人・若手社員が「相談しづらい」「十分にサポートをもらえない」と感じる職場環境は、早期離職を招く大きな要因の一つになります。その一方で、先輩社員・管理職もまた、価値観の多様化が進む世代に対して、どのような接し方や指導が適切なのかが分からず戸惑っているのではないでしょうか。いま求められるのは、「教える力」と「関係を築く力」を兼ね備えたOJTトレーナーの育成です。
本記事では、OJTを通じて新人・若手社員の成長と定着を実現するためのスキルとその啓発方法を解説します。知識やスキルを教えるだけに止まらず「信頼を育む」OJTへ。組織全体で新人・若手社員を支える仕組みづくりを進めましょう。
- 新人・若手社員の離職防止には、日常的な質の高い関わりとOJTトレーナーによる信頼関係の構築が重要。
- OJTトレーナーには目標設定や傾聴などの実践的なスキル習得が必要。
- 研修を通じて指導力を高めることで、新人・若手社員の成長と職場への定着を着実に支援することが可能。
新人・若手の定着に、現場の「育てる準備」が必要な理由
自己流のOJTが離職を招く
近年、採用コストは以前よりも高騰しており、希望する人材を採用することが難しくなっています。そのような中、せっかく入社してくれた新人・若手社員には、スムーズに職場になじみ、仕事を覚え、将来的には戦力として活躍してほしい。そう願う組織は多いでしょう。
しかし現実には、多くの組織で新人・若手社員の早期離職が大きな課題となっており、人材定着の難しさが浮き彫りになっています。早期離職の原因のひとつには、配属先で多く実施されている育成方法「OJT」がうまく機能していないことがあげられます。
かつては、新入社員の導入研修を終えたあとは、「実践と経験を積めば新入社員はやがて育つ」という考え方が一般的だったかもしれません。しかし現在では、新入社員が組織や上司、先輩社員に求める関わり方が変化しています。こうした変化に対応しきれない“自己流のOJT”だけでは、十分な育成は期待できません。もしかすると、貴社でも以下のようなOJTが行われていませんか?
- 計画的な指導ができず、その場の対応に頼る場面が見受けられる
- 指導の進め方にOJTリーダーごとの違いがあり、新人・若手社員が戸惑うケースがある
- 指導の目的や意図が十分に共有されておらず、「見て学ぶ」スタイルに偏る傾向がある
- 業務の多忙さから継続的な関わりが難しく、新人・若手社員へのフォローが手薄になることがある
こうした環境下では、新人・若手社員が不安や孤独を感じ、「この職場では成長できない」と見切りをつけてしまい、離職につながる恐れがあります。一方で、OJTを担当する先輩社員も日々の業務に追われ、育成に十分な時間を割けなかったり、計画していたことを継続できなかったりする現実があります。
後輩の離職はOJTトレーナーの自信の喪失につながるだけでなく、育成を通じた成長機会が失われてしまう可能性もあります。新人・若手社員の早期離職は、さまざまな観点で組織にとっての損失と言えます。
以上のようなことから、新人・若手社員の定着には、OJTの質を上げ、育てる側の準備をしておく ことは欠かせません。OJTトレーナーを計画的に育成することは、離職防止と人材の戦力化への近道といえます。
信頼は育成の土台、OJTで大切なのは“安心感”の提供
多くの企業が、新入社員向けの導入研修に力を入れています。しかし、定着のために本当に重要なのは、研修が終わった「現場配属後」です。ここで行われるOJTの質が、新人・若手社員の働き続ける意欲を大きく左右します。
OJTは、業務に必要なスキルや仕事の進め方を教え込むためのものではありません。新人・若手社員の成長を支える上で重要なのは、「関係構築」「相談のしやすさ」「心理的安全性の確保」といった、OJTを通して育まれる安心感です。新人・若手社員は、業務指導を通した日常の関わりからOJTトレーナーに対して安心感を持ち、そこで信頼関係が生まれ、結果的に主体的に成長しようとする意欲を高めていきます。
このように、配属後のOJTにおける“日常の関わり”が、新人・若手社員の成長意欲を支え、定着のカギとなります。
計画的OJTが離職率を下げる、データが示す育成の重要性
厚生労働省の調査によると、計画的なOJTやOFF-JTを行っている企業の多くで、離職率が明らかに低いという結果が出ています。例えば、離職率が2%未満という非常に定着率の高い企業では、実に9割以上がOFF-JTを実施し、約9割が計画的なOJTも導入しています。
一方で、離職率が高くなるほど、これらの育成施策の実施率は低下していきます。つまり、新人・若手社員の育成に組織的に計画性をもって取り組んでいる企業ほど人が辞めにくいという関係性が、数字からも読み取れるのです(※1)。
※1…出典:「資料2 人材開発と人材確保の関係」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_57052.html)を参考に作成
こうしたデータを踏まえても、新人・若手社員が職場に早くなじみ、業務と人間関係の両面で安心して働けるよう、育成体制の充実に取り組む必要があります。特に、日々接するOJTトレーナーの関わり方や支援の質が、新人・若手社員の定着を大きく左右するため、OJTトレーナーに対するスキル啓発や役割意識の向上は欠かせません。
以上のように、定着に効果的なOJTを実施するためには、トレーナー自身のスキル向上が欠かせません。次の章では、OJTトレーナーとしての質を高めるために重要な「5つのスキル」についてご紹介します。
OJTトレーナー研修で得られる5つのスキル
OJTトレーナー研修では、以下の5つのスキル習得と意識の向上を重視します。
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OJTトレーナーに求められる5つのスキル
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スキル1【教える】
OJTリーダーにとって、まず求められるのが「教える力」です。職場で教えるべき内容には、業務に関する知識や技術はもちろん、仕事への取り組み方やマナー、チームで働くための姿勢なども含まれます。つまり、新人・若手社員は、配属先で業務を遂行するための専門性と、社会人として必要な態度の両方を学ぶことになります。これらを身につけながら成長していくには、OJTリーダーの「教え方」も非常に重要です。新人・若手社員の成長段階や理解度に応じて、伝え方を工夫しながら丁寧に指導していくことが求められます。
スキル2【傾聴する】
OJTリーダーにとって欠かせないのが、「傾聴する力」です。一方的に教えるだけでは、新人・若手社員の本音やつまずきに気付いたり、対応したりすることはできません。相手の言葉に耳を傾けながら、その背景にある気持ちを推察し、時には確認することで、共感的に理解する姿勢が伝わります。傾聴とは、安心して話せる空気をつくる意識的なコミュニケーションです。そのためには、うなずきや相づちなどの反応、さらに、気持ちを表現しやすいように質問を交えることも効果的です。例えば「どうしてそう感じたのか、教えてもらえますか?」「〇〇と言っていたのは、少し不安な気持ちがあったということですか?」など、新人・若手社員が「きちんと聞いてもらえている」と感じることで、信頼関係が深まり、主体的な学びや成長を後押しすることにつながります。
スキル3【質問する】
OJTリーダーに求められる3つ目の力は、「質問する力」です。適切な質問を通じて、相手が自ら気づき、考えを深めるサポートができます。
例えば、「どんなことをやってきたの?」と過去の行動を問うよりも、「これからどんなことに挑戦してみたい?」と未来に向けた質問をする方が、相手の可能性を引き出しやすくなります。
また、否定的な問いかけよりも、肯定的な言葉を使った質問のほうが、相手が安心して話しやすい傾向があります。例えば、「なぜできなかったの?」と聞くよりも、「何が障害になったのかな?」と尋ねることで、相手の気持ちを尊重しながら状況を引き出すことができます。さらに、イエス・ノーで答えられるクローズドクエスチョンだけでなく、相手の考えや感情を深掘りする「オープンクエスチョン(拡大質問)」を意識することも大切です。これにより、相手が自身の内面に気づきやすくなり、より深い対話が可能になります。
スキル4【指摘する】
OJTを効果的に進めるうえで重要なのが、「指摘する力」です。新人・若手社員の成長を促すには、良い点を認めることはもちろん、改善すべき点を適切に伝えることが欠かせません。指摘は、相手の人格を否定するのではなく、行動や結果に焦点を当てて事実に基づき行うことが大切です。ここでは、具体的なアドバイスが改善への第一歩となります。また、指摘はタイミングも重要で、状況を見極め、落ち着いて話ができる場を選ぶ配慮も必要です。相手の行動変容をサポートする姿勢が信頼を生み、成長意欲を支える力になります。伝える勇気と思いやりのバランスが指摘の質を高めます。
スキル5【計画する】
ここまでの4つは関わり方のスキルですが、最後に挙げたいのが、「計画する力」です。OJTは、流れに身を任せて行うのではなく、あらかじめ育成計画を立て、計画的に進めることが求められます。習得してほしい知識や技術、態度ごとにOJTリーダーが具体的な目標を設定し、それに沿って指導を行うことで、新人・若手社員も学ぶべき内容が明確になります。また、育成期間中は、設定した目標に対しての到達状況を丁寧に確認し、必要に応じて指導の内容や進め方を見直していくことが大切です。こうした調整を行いながら、一人ひとりの成長に合わせた育成を進めることで、より効果的なOJTが実現します。
実践力を高めるOJTトレーナー研修の進め方
「任せきり」ではなく上司が伴走するOJT
新人・若手社員の育成をOJTトレーナーの頑張りに任せきりにするのではなく、職場全体での環境づくりが重要です。 特に、人材育成に責任を持つ上司がOJTトレーナーを支援し、積極的に関与することは欠かせません。心理学者クルト・レヴィンは、人間の行動は「個人の特性」と「環境」の相互作用によって決まると述べています。つまり、いくら優秀なOJTリーダーがいても、サポートのない職場環境では十分な成果を発揮しにくいのです。
だからこそ、OJTトレーナーが育成に集中できるよう、業務の優先順位を調整するなどの配慮が求められます。教える側・教わる側の双方が不安や負担を抱えたままでは、十分な成果を得るのは難しいでしょう。さらに、上司が定期的に面談やミーティングを実施し、「育成は職場にとって重要な取り組みである」という認識をチーム全体で共有すれば、安心感が生まれ、現場での育成を後押しすることができます。
OJTトレーナー研修で押さえるべき5つの観点
OJTトレーナーが職場で効果的に指導を行えるようになるためには、知識習得とスキル啓発の両方を押さえた研修プログラムが必要です。ここでは、弊社が特におすすめしたい5つの観点をご紹介します。
①OJTの基本と指導の流れを理解する
OJTトレーナーが自信を持って新人・若手社員指導に取り組むためには、OJTの基本構造と指導の流れを事前にしっかりと理解しておくことが欠かせません。育成の目的やOJT計画の作り方、トレーナー自身の役割を明確にすることで、「何を、どのように教えればよいのか」が可視化され、不安や迷いが軽減されます。研修を通してOJTの全体的な流れを体系的に捉え、ポイントを知ることで指導の質と一貫性を保つことができます。
②ロールプレーイングを取り入れ実践力を高める
実際の職場で起こりうるシチュエーションを再現したロールプレーイングを行い、「伝える力」「対応力」「フィードバック力」など、OJTに欠かせないスキルをに体験的に習得します。例えば演習では、OJTリーダー役・新入社員役・観察者役といった複数の立場を経験し、それぞれの視点から学びを深めます。
こうした体験型の学習により、頭で理解するだけでなく、「新入社員の立場を踏まえた適切な関わり方」がどのようなものか体感することができます。
実践に即したスキルが養われることで、OJT現場での対応力が向上し、指導の質が高まります。
③個々の特性を理解する
新人・若手社員一人ひとりの個性や特性を把握することは、個人に合わせた関わり方を実践するうえで役立ちます。強みや大切にしている価値観、行動特性を理解したうえで、それに応じた関わり方をすることが、信頼関係の構築やパフォーマンス向上につながります。
そこで、研修に診断ツールや心理アセスメントを取り入れることは非常に有効です。自分と他者との特性の違いを客観的に可視化することで、相互理解が深まり、コミュニケーションをスムーズにすることができます。
実際の人材育成の現場では、無意識のバイアスや一律的なコミュニケーションスタイルが、関係性の構築や業務連携の妨げとなることがあります。だからこそ、画一的な対応ではなく、個々に応じた柔軟なアプローチが求められるのです。
④フィードバック力を高める
質の高いフィードバックは、行動変容に欠かせません。曖昧に褒めたり、漠然と注意したりするだけでは、相手に意図が伝わらず、かえって混乱を招くおそれがあります。研修では、「承認(褒める)」「指摘」「次のアクションの提示」という3つの基本ステップに基づき、的確なフィードバック力を養います。
【フィードバックの例】
承認
「先週の面談とは違い、お客様の課題感をしっかり引き出そうという進め方ができていましたね」
指摘
「ただ、お客さまからの質問への対応方法には、もう少し改善できるところがあります。具体的には、〇〇さんは『△△』という対応をしていました。お客さまにはあいまいな回答になっていた印象です。」
次のアクションの提示
「無理にその場ですべての質問を解決しなくてもよいので、持ち帰ってすぐに回答しますなど、誠実な対応を心がけましょう」「どんなことを学んでおくと、もう少し余裕を持ってお客さまに対応できそうですか?」
フィードバックにおいては、指導相手の行動とその影響に焦点を当てることが重要で、人格を否定するような表現は禁物です。相手に寄り添う伝え方をすることで、自分の成長のためのアドバイスであると受け止めて、自ら行動を変えようとする意欲が高まります。
⑤本質的なコミュニケーションの理解とラポールの形成
OJTトレーナーに期待されるのは、仕事を教えることだけではなく、新人・若手社員との深い信頼関係です。そのためには、本質的なコミュニケーションへの理解が欠かせません。
研修では、自分自身が無意識に抱えている前提や思い込みを見直すことから始めます。例えば、「新人は教えれば理解できるはず」「間違いはすぐに正すべき」といった前提があると、相手との認識のズレが生まれ、関係性が硬直しがちです。こうした前提を意識化し、相手の視点や感情に寄り添う姿勢に切り替えることが、良いOJTの基盤になります。
相手との信頼関係構築のために参考となるのが、「ラポール(信頼関係)」の考え方です。ラポールとは、互いに安心して話し、理解し合える状態のことで、「この人は自分の話を受け止めてくれる」という感覚が生まれる関係性を指します。
ラポールを築くためには、次の3つの関わり方が効果的です。
「そう感じたんですね」「その状況では迷いますよね」
考えを丁寧に引き出す質問
「どんな意図でそう進めてみたのか、教えてもらえますか?」
一呼吸おいて伝える姿勢
相手の話を最後まで聞いてから、落ち着いて指摘や助言を伝える
コミュニケーションというと、あまりに当たり前に感じられるかもしれません。しかし、自分自身の前提や思い込みを見直して、ラポールといった信頼構築のための概念や関わり方を学習することで、新人・若手社員との信頼関係の築き方が具体化され、OJTトレーナーとしての実践力が大きく高まります。
例えば、より深い人間関係の構築に寄与する「ラポール(信頼関係)」の考え方を活用するなど、人間関係の構築とその実践方法を学ぶことで、職場での信頼感と安心感のある指導が可能になります。加えて、業務指導に必要な基本スキルを体系的に身につけることで、OJTトレーナーとしての実践力が養われます。
まとめ
OJTは、新人・若手社員に業務を教えるだけでなく、「この職場で働き続けたい」と思える安心感と信頼感を育むプロセスです。トレーナーが適切な指導スキルと関わり方を備えていれば、新人・若手社員は安心して成長に向かうことができ、職場への定着も自然と促されます。
しかし、OJTをトレーナー個人の努力に任せきりにしていては、継続的な人材育成は難しくなります。ここで鍵となるのが、「職場全体で育てる」という視点です。心理学者クルト・レヴィンは、人の行動は「個人の特性」と「環境」の相互作用によって決まると述べています。この考え方は、OJTにおいても極めて重要です。どれほど優秀なトレーナーがいても、育成を支える環境が整っていなければ、その力を十分に発揮することはできません。
だからこそ、職場全体で育成を後押しする仕組みづくりが求められます。例えば、OJTトレーナーが育成に集中できるよう業務の優先順位を調整する、上司が定期的に面談を実施して育成の重要性をチームで共有する、といった取り組みが必要です。組織として「人を育てること」の価値を明確に打ち出すことが、新人・若手社員の安心感と信頼感を育み、離職防止と早期戦力化につながるのです。
ビジネスコンサルタントではOJTトレーナー研修の提供に加えて、育成のための環境づくりをご支援します。ぜひご相談ください。
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