OJTトレーナーとは?役割・仕事内容や効果的な育成方法を解説
- OJTトレーナーとは、新入社員の成長と定着を支援する教育担当
- OJTトレーナーの役割は業務支援や動機付け、メンタル面のフォローなど多岐にわたる
- 効果的なOJTのためには育成計画と振り返りが重要
OJTトレーナーとは何か
OJTトレーナーとは、新入社員の成長と定着を支援する教育担当
OJTトレーナーとは、新入社員に対して日々の業務を通じて仕事の進め方や基本姿勢、実務に必要なスキル、職場のルールや文化を教え、成長と組織への定着を支援する教育担当です。多くの場合、配属される職場の年次の近い先輩社員がこの役割を担います。例えば、報告・連絡・相談(報連相)や基本的な顧客対応への手順など、社会人としての基本行動を実践のなかで教え、身につけることをサポートします。実務を通じたこうした学びは、新入社員が自然に行動を習得する上で効果的です。
なお、OJT(On the job Training)とは、実務の業務を行いながら知識やスキルを身につける育成手法です。特に新入社員にとっては、入社直後から現場の仕事を経験することで、座学では得られない“リアルな学び”を通じて、即戦力としての成長が期待できます。
OJTトレーナーは、新入社員育成のカギを握る存在
OJTトレーナーは、新入社員にとって最も身近な存在であり、その関わり方は、成長スピードやモチベーション、さらには定着率にも大きく影響します。またOJTトレーナー自身にとっても、教える経験は自身の理解を深め、視野を広げる貴重な成長の機会となります。そのため、OJTトレーナーには指導係以上の役割が求められており、育成の成否を左右するキーパーソンといえます。
OJTトレーナーに求められる3つの役割
では、OJTトレーナーには具体的にどのような役割が求められるのでしょうか。ここでは、大きく3つの役割に分けて説明します。
業務指導と支援
最も基本的な役割は、業務の進め方を丁寧に教えることです。新入社員は社会人経験が浅く、仕事に対する不安や戸惑いがあるため、OJTトレーナーが身近で業務の流れや優先順位の付け方を伝え、つまずきそうなポイントを事前に補うことが必要です。
また、業務そのものに加えて、職場内のルールや慣習、コミュニケーションの取り方なども伝えることで、新入社員の自立を支援します。人事としては、OJTトレーナーがこうした役割を果たせるように、OJTトレーナー任命時に、育成の目的や期待される役割を明示したガイドラインのような丁寧な情報共有を行うことが望まれます。
成長実感の支援と動機づけ
新入社員が「できるようになった」と実感できる場面を意識的に作ることも、OJTトレーナーの重要な役割です。人は成長を感じられると、次の挑戦への意欲が湧きます。だからこそ、週単位・月単位での目標設定や、達成できたことへのポジティブなフィードバックが効果を発揮します。
例えば「今月は一人で顧客対応を完了できた」「報連相のタイミングがよくなった」など、具体的な成果を評価することで、新入社員は自信を持ちやすくなります。このような関わりが、結果として離職の防止や成長スピードの加速につながります。
メンタル面のフォローと信頼関係の構築
配属直後の新入社員は、緊張や不安、孤独感を抱きやすい状態です。そこで、日常的な声かけや雑談、悩みに耳を傾ける姿勢が大きな支えとなります。
OJTトレーナーが心理的安全性を確保し、「この人には話しても大丈夫」と思ってもらえる関係を築けると、新入社員はより積極的に仕事に向き合うようになります。人事としても、配属後の初期段階でのフォロー面談や、OJTトレーナーへの観察ポイントの共有を通じて、こうした役割の重要性を伝えていくことが有効です。
次からは、新入社員のOJTトレーナーの具体的な仕事内容を紹介します。
効果的なOJTのために、OJTトレーナーがすべき仕事内容

OJTの目標を立てる
OJTの第一歩は、明確な目標設定です。「どのような人材に育てたいか」「いつまでにどのレベルに到達させるか」を具体的に描きます。
多くの企業では、等級やキャリアステージごとに求められるスキルや行動指針が定められています。それらを参考にしながら目標を設定することで、組織の期待と個人の成長を一致させやすくなります。もし明確な指標がない場合は、職場の上司や先輩と相談しながら設定すると、現場のニーズに合った実践的な目標になります。
例えば、次のような目標が考えられます。
・「〇月末までに、指示なしで日常業務を遂行できるようにする」
・「〇月までに、電話応対・来客対応をマニュアル通りに実施できるようにする」
・「毎日1回、業務に関する質問・相談を自発的に行う習慣を身につける」
目標設定の2つのポイント
- 課題・期限・達成基準・条件の4観点で具体化する
例:「〇月末までに(期限)、週3回以上(達成基準)、上司の同行なしで(条件)、お客様との商談をできるようになる(課題)」
- SMARTの法則で質を担保する
S(Specific):具体的である
M(Measurable):測定可能である
A(Agreed-upon):本人が納得している
R(Realistic):現実的かつ挑戦的である
T(Time-bound):期限が明確である
設定した目標は、新入社員本人だけでなく、上司・先輩とも共有し、職場全体で育成方針を一致させることが重要です。
育成計画を立てる
目標が定まったら、次は達成に向けた具体的な育成計画を作成します。成長段階(ステージ)によって、要求される仕事(職務)の内容と質は変わるため、それぞれのステージに合わせた計画を立てることが重要です。
例えば「知識・技能・態度」の3軸で整理することで、成長イメージを立体的に描くことができます。
- 知識…~を知っている、理解している、分かっている など
- 技能…~ができる、やれる、技術がある、身につけている など
- 態度…~を意識している、心掛けている、~を努力している、継続している、自信がある、やれそうだと感じている など
例:営業職の場合(3カ月のステップ)
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4月 |
5月 |
6月 |
知識 |
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- 自社のさまざまな商品について知っている
- 先輩のセールストークから、営業で話すべきポイントを理解している
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技能 |
- ビジネスマナーを身につけている
- 基本的な電話応対やメールの返信ができる
- 適切なタイミングで報連相ができる
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- アポイントを取れる
- 自己紹介と会社案内ができる
- 備品発注など営業所業務を教えてもらいながらできる
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- 特定の商品について、練習を重ねたセールストークを一通りできる
- 先輩の作成した企画書のポイントを理解し、自分の意見を加えられる
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態度 |
- 元気な挨拶を心掛けている
- 気になったことは何でも質問するよう心掛けている
- フィードバックされたことはメモを取るなど改善できるよう意識している
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- 受け身にならないよう、自発的な行動を心掛けている
- 毎日1つでも成長できるよう努力している
- 周りの人におかげさまの気持ち、敬意を持って接している
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- 上司や先輩の指導のもと、振り返りを行い、改善できるよう意識している
- 成果が出るまで諦めずに努力している
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計画作成時の3つのポイント
- 目標に近づく道筋が見えること
現在の問題点が解決すると感じられる計画にすることが必要です。
- ワクワク・ドキドキするような共感できる計画であること
後輩が「よし、やってみよう!」と思える計画にするために、一緒に練り上げることが必要です。
- 具体的に行動できる計画であること
曖昧なスローガンだけでは、具体的に行動できません。実際に行動に移せるように、取り組み内容まで明確にした具体策が必要です。
この計画は、OJTトレーナーと新入社員だけでなく、人事や上司とも共有し、組織全体での一貫した育成を意識することが成功の鍵です。
育成計画に基づく実務指導
育成計画が完成したら、それに沿って実務指導を進めましょう。指導の基本ステップを意識すると、効果的に育成を進められます。
指導の基本の3ステップ
- 見せる:まずはOJTトレーナーが実演し、具体例を示す
- 一緒にやる:新入社員と一緒に実施し、都度フォローする
- 任せる:新入社員に主体的にやらせ、必要に応じて助言する
このサイクルを繰り返すことで、無理なくスキル習得と自立を促すことができます。
指導においては、やり方を教えるだけでなく、「なぜこの作業が必要なのか」といった背景や目的を伝えることも重要です。納得感が高まることで、新入社員の主体性を引き出しやすくなります。
例えば、
「この確認作業は、ミス防止のために欠かせない」
「この報連相は、チーム全体の効率を上げるため」
といったように、業務の意義やその先にある目的をセットで伝えましょう。これにより、新入社員は仕事への理解が深まり、指示を待つだけでなく自ら考えて行動できるようになります。
また、指導すべき内容は業務スキルにとどまりません。
・報連相のタイミング
・ビジネスマナー
・職場内でのコミュニケーションの取り方
といった、社会人として仕事に取り組むうえでの基本的な行動も意識的に指導することが重要です。なぜなら、これらは暗黙知になりがちなポイントであり、新入社員は言われなければ気づけないことも多々あるからです。OJTトレーナーから積極的に声をかけてあげましょう。
進捗確認と振り返りをする
作成した計画に基づいてOJTを行う際に最も重要なことは、進捗確認です。新入社員に仕事を任せきりにしている状態ではOJTとは言いません。
効果的に進捗確認し、さらなる学習・成長を促進するためには、「質問」を投げかけ「傾聴」することが有効です。
質問する際は、目的に合わせて聞き方を変える必要があります。最も避けたいのは、相手が否定されていると感じ、本音を言えなくなってしまうような質問の仕方です。
例1:否定質問と肯定質問
- 否定質問「どうしてできないの?」…責められている・ばかにされている印象を相手に与えることがある
- 肯定質問「どうしたらできると思う?」…相手は話しやすく、前向きな思考になる
例2:過去質問と未来質問
- 過去質問「どのようなことをやってきたの?」…反省を促す際に有効
- 未来質問「どのようなことをやっていきたいの?」…新たな行動・可能性を引き出す際に有効
そして、質問を投げかけたあとは、傾聴することが効果的です。
相手の話を共感的に理解するようにしましょう。相手の話を遮らずに最後まで聴いたり、相づちをしたりして、ノンバーバルコミュニケーションを意識しましょう。結論を急がず、一緒に考えることが大切です。
フィードバックをする
フィードバックは、新入社員の成長を後押しするための重要なコミュニケーションです。
「できていないこと」だけでなく、良い点・変化・努力に気づき、それを伝えることが、次の行動意欲を高めます。
フィードバックのポイント
- 事実ベースで具体的に伝える
- 改善点は「どうすれば良くなるか」をセットで示す
- 良い点は積極的に褒める
「ここが良くなった」「先週よりスムーズだった」など、変化や努力に気付くフィードバックは、新入社員の自信を高め、次の行動意欲につながります。
OJTトレーナー自身の振り返りをする
OJTを効果的に継続していくには、OJTトレーナー自身の振り返りも重要です。定期的に「自分の関わり方」を見直し、育成方法を改善していくことが求められます。振り返りには、主に2つの視点があります。
振り返りの視点
計画の振り返り
計画そのものを見直す視点です。以下のような観点から振り返ります。
- 達成できたものと達成できなかったものは何か?
- 計画は進捗確認しやすい内容になっていたか?
- 無理のないスケジュールになっていたか?
前提・仮説の振り返り
計画を立てた時の前提や仮説を見直す視点です。例えば、以下のようなことを振り返ります。
- なぜこのような計画を立てたのか?
- 仮説(自分の考え)は正しかったのか?
- 後輩に対する見方を、変える必要があるか?
この2つの視点から定期的に振り返ることで、より後輩に合った関わり方ができるようになります。OJTを通じて得られた気づきや学びを整理することは、トレーナー自身の成長にもつながります。
OJTトレーナーに適した人材とは?

OJTトレーナーを人選する際には、業務経験以外にも重視したい観点があります。より効果的な新入社員育成と組織への定着につながりうる、5つの条件をご紹介します。
入社2~4年目で、業務に一定の習熟があること
OJTトレーナーには、業務を一通り経験し、余裕を持って新入社員をサポートできる立場が求められます。目安としては入社2~4年目の社員が適任とされることが多いです。現場感覚を持ちながらも、業務を俯瞰(ふかん)できる段階にあり、後輩指導に割く時間や心の余裕が生まれる時期だからです。
また、1年目の記憶が新しいことで、新入社員がつまずきやすいポイントや不安を理解しやすい点もメリットです。ただし、OJTトレーナー本人が業務に追われている場合は負担が大きくなるため、周囲のフォロー体制も重要となります。
新入社員と同じ、または類似する業務経験があること
現在担当している、もしくは過去に担当した業務が新入社員と重なっていることが理想です。具体的な実務を通じて、実践的な指導ができるためです。
人材育成への関心・意欲があること
「育てること」に対して前向きな姿勢があるかは、OJTの質を大きく左右します。必ずしも指導経験が豊富でなくても、育成に興味を持ち、OJTトレーナーという役割を果たすこと自体が自己成長の機会と捉えられるような人材が適しています。
新入社員に対して思いやりとコミュニケーション力があること
新入社員の不安や成長段階に寄り添い、適切な声掛けやフォローができることが求められます。一方的に教えるのではなく、対話を重視できる人が望ましいです。
模範となる行動ができること
OJTトレーナーは、単なる「教える人」ではなく、新入社員にとってのロールモデルです。基本的なビジネスマナー、仕事への姿勢、責任感など、周囲から信頼される行動が取れることが重要です。
もちろん、全てを全てを完璧に備えている人材は多くありません。育成支援体制や、OJT向けの教育機会を活用しながら、OJTトレーナー自身も成長していく環境づくりが重要です。
新入社員配属前後のスケジュール
OJTトレーナーがスムーズに役割を果たせるよう、人事としても新入社員配属前後のスケジュールを提示し、育成方針等必要な情報提供をしましょう。以下は、一般的なスケジュール例です。自社の配属タイミングや方針に応じて調整し、必要に応じて現場との連携やサポートを行いましょう。
スケジュール例
時期 |
内容 |
配属前 |
- 上司や人事部に、育成方針や期待役割を確認する。
- 育成計画を作成し、上司に共有する。
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配属初日~1週間 |
- 積極的にコミュニケーションをとり、良好な関係を築けるようにする。
- 新入社員に職場環境や社内ルールの説明を行う。
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1カ月以内 |
- 業務の指導やサポートを行う。
- 毎日または週1回、目標に対しての振り返りを行う。
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3カ月以内 |
- 成果を出せるように業務のサポートを行う。
- フィードバックの内容をブラッシュアップし、動機付けしながら新たな課題を設定する。
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6カ月以内 |
- 半年の育成計画の全体を振り返る。
- 今後の目標設定を支援する。
|
人事としては、OJTトレーナーが孤立しないよう定期的に声をかけ、育成の振り返りや悩みの共有の場を設けることも効果的です。OJTは現場任せにすると属人化しやすく、OJTトレーナーの負担も大きくなりがちです。そのため、情報提供や振り返り支援の仕組みを通じて、人事と現場が一体となって育成を進める体制づくりが求められます。
OJTトレーナー育成には、外部研修の活用が効果的
OJTトレーナーに任命されたものの、「どう教えればよいかわからない」「自分の指導が本当に正しいのか不安」といった声は、多くの職場で聞かれます。
こうした状況を改善する手段として、外部のOJTトレーナー研修を導入する企業が近年増えています。
以下に、研修導入前と導入後の変化を比較形式でご紹介します。
Before / After で見るOJTトレーナーの変化
項目 |
Before(導入前・社内のみ) |
After(外部研修導入後) |
指導方法 |
OJTトレーナーごとに指導方法・内容に差がある |
育成スキルが標準化され、誰でも一定の質で指導できる |
OJTトレーナーの意識 |
「教える自信がない」「育成は苦手・負担に思う」と感じやすい |
「育成は自分の成長にもつながる」と前向きに |
新入社員との関係性 |
適切な関わり方がわからず、思うように関係性を築きにくい |
関わり方を学び、信頼関係が築きやすくなる |
新入社員の成長 |
受け身になりやすく、モチベーションが続きにくい |
主体的に動き始め、早期に戦力化する |
組織全体の育成力 |
個人任せで、現場に依存したOJTになりやすい |
組織全体で育成に関わる文化が生まれる |
このように、外部研修を導入することで、OJTトレーナー全員が共通のスキルを学ぶことができ、「育成の型」が整います。その結果、OJTトレーナーが安心してOJTに取り組める環境が生まれます。指導方法や関わり方、フィードバックのコツなど、OJTに必要な基礎を短期間で効率的に習得することができることは、外部研修を活用する大きなメリットの一つです。
こんな企業におすすめです。
-
OJTの進め方が人によってバラバラで、標準化されていない
-
新入社員が「誰に聞くべきかわからない」「方針が毎回違う」と戸惑っている
-
育成が業務の引き継ぎだけになっていて、成長支援につながっていない
OJTの質を高めるには、まず“教える側”の環境整備が欠かせません。
社内の取り組みだけでは補いきれない部分に、外部の専門性を取り入れることで、育成の質、新入社員の定着、そして職場全体の活性化につながる好循環を生み出すことが可能です。
最後に
OJTトレーナーは、新入社員育成の現場で最も重要な存在です。ただ業務を教えるだけではなく、成長を支え、職場への定着を促す役割が求められます。そのためには、OJTトレーナー自身が育成スキルを身につけ、計画的かつ主体的に新入社員と関わることが不可欠です。
とはいえ、すべてを現場任せにするのは限界があります。人事部門によるサポートや、外部研修の活用を通じて、OJTトレーナーの負担を軽減しながら育成の質を高めることが、組織全体の成長につながります。
新入社員が安心して成長できる環境を整えるために、OJTトレーナーへの支援を改めて見直してみてはいかがでしょうか。
当社では、OJTトレーナー向けの実践的な研修や支援プログラムをご提供しています。
育成に課題を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。