影響のストーリーは、「どこに向かおうとしているか」だけでなく、「どうやって行くか」を伝えます。それによって、新しいアイデアを聞き手が受け入れやすくなります。聞いた人々の中には変化が起こり、語りがどんどんつながっていくことで次々と新たな変化を起こし、変革の叙事詩となっていきます。
これはアイデンティティやアイデアのストーリーで提示した「私たちの未来」の実現のために皆が助け合い、皆が持っている能力やリソースを未来へと向けさせる働きをします。
Nancyは変革の物語について調査し、そこには5つのステージがあることを発見しました。

【物語の導入部】
物語は構想(Dream)を語るところから始まります。ビジョンやどのような未来がやってこようとしているのかを伝えます。同時に、メンバーにはあなたについてくるか、そうしないかを選んでもらうことになります。現在の安定した状態から飛び降りる(Leap)ように不確実性の中に身を投じることになるからです。
①構想ステージ(Dream):現状維持か、新しい「構想」の実現に一役買うかの選択を迫られる
②跳躍ステージ(Leap):この先の変化は避けされないことを認め、犠牲を払う覚悟の上で
「跳躍」を決意する
【物語の中間部】
その後の中間部は正念場で、話が盛り上がる場面です。映画では見どころとなるところです。しかし、これは格闘(Fight)のステージに入るので、メンバーにとってはとにかく七転八倒の大変な場面です。行く手を阻む様々な障害があります。それは旧態依然とした古い考え方かもしれませんし、内部の抵抗勢力かもしれません。そしてそのような障害を乗り越えるたびに、目標に近いところに登ってゆきます。
③格闘ステージ(Fight):敵に直面することで長く厳しい旅がスタートし、覚悟が試される
格闘を終えるやいなや・・・
④登坂ステージ(Climb):・・・奈落の底から抜け出す勇気を奮い起こさなければならない。
大抵は長い時間がかかり、格闘と登坂を繰り返す
【物語の結末部】
結末部は旅の終わりです。ここで一旦立ち止まり、私たちは何ができて、何を得たのかを振り返ります。
⑤到達ステージ(Arrive):勇気ある最後の一押しによって、目標に「到達」し、約束の報酬を受け
取り、努力をたたえられる。価値あるスキルを身に着けて、新たな冒険へと乗り出していく。
変革のライフサイクルは波のように続いていくので、この物語を無限に繰り返すことになります。リーダーは物語の5つのステージで、異なる感情に火をつける活気づけのストーリーを使う必要があります。なぜなら、メンバーは変革のライフサイクルの中で、様々な感情を味わうからです。
例えば、日常から次の理想の世界へ移行するには、先行きが見えない道を歩まなくてはならず、不安や疑念、恐れを感じることがあります。一人では切り抜けられないところを、ストーリーの力で正しい方向に導き、次の一歩を踏み出せるようにするのです。そのためには、人々の心の深いところにあるモチベーションを喚起するようなストーリーを語ります。
- 構想のステージ=インスピレーション
メンバーがインスピレーションを得たり、ビジョンのプラス面を感じられるようなストーリーを語ります。
- 跳躍のステージ=決意
飛び移るにあたり、メンバーの意思を確かめる必要があります。ここではメンバーが次のステップに移るためにある程度の犠牲を払う覚悟や決意をもつストーリーを語ります。
- 格闘のステージ=勇気
勇気を持って立ち向い乗り越えることができるようメンバーを奮い立たせるストーリーを語ります。
- 登坂のステージ=忍耐
頂上が見えなくても、すごく疲れていても、坂を登り続ける忍耐のストーリーを語ります。頑張り続けることを可能にするストーリーを語ります。
- 到達のステージ=リフレクション
立ち止まって振り返るタイミングです。次の冒険へ旅立つ前に、私たちが何をしてきたか、何を得たのかのストーリーを集め、それを皆に伝えてゆきます。
こうして、一連の変革の物語は積み重なって最古の物語の形式でもある「叙事詩」のようになっていくのです。
しかしある時、Covid-19や経済危機のように今まで積み重ねてきた変化を吹きとばしてしまうような事が竜巻のように起こり、それがイノベーションを起こすことがあります。
このような非連続的で世代交代を迫るような大きな変化においては、コミュニケーションは各ステージにおいて慎重に、そして、丁寧に行う必要があります。