論語から読み解くリーダーの要諦 3本の柱
1つ目は「実学」
リーダーの要諦となる3本の柱。その1つ目は実学です。
実学とは、仕事をしていく上で絶対に必要なスキルのこと。なくては困るものであり、足りなければ学習して補っていくもの、語学や法律、経済などの基礎知識など自覚して埋めていく専門分野の知識などを言います。
自分が置かれているステージが高くなると、必要な能力も高いものが要求されますが、それらは短期的な取り組みで成果が出やすいものでもあります。
もっとも大切な「人間学・人間力」
2つ目は人間学・人間力です。
それらは、実学以上に大切なものです。特に組織の人たちをリードする立場の人には不可欠なものです。しかし、必要なことはわかっているけれど、どうやったら身につくのか、成果が出るのか、実力がついていることがわかるのか、とても見えにくいものです。
人は評価されやすい部分は評価し、評価がつきにくいものにはあまり興味を示しません。しかし、立場が上になればなるほど、問われるのはこの人間学・人間力です。
自分がリーダーとして部下の信頼を得ているかどうかは、何か問題が起こった時、とっさの場合の言動や行動でわかります。会社内で危機的状況が起こった時、誰の意見をとっさに仰ぐでしょう。日ごろ、信頼している先輩や上司からの指示を受けたい。誰もがそう思うはずです。とっさの時にこそ、自分が人から信頼されているかどうかが露呈するというやっかいなものでもあるのです。
実践場面を想像しながら、あるいは過去の危機的状況や今乗り越えるべき案件を考えながら論語の章句に触れていくことで、解決策を見出すヒントを得られるかもしれません。
オンとオフをうまく切り替える「自分のための時間の活用法」
3つ目は自分のための時間の活用法です。
仕事に直接は関係ないけれど、人間の幅を広げるもの、教養として身につくもの、自分の心が落ち着ける場所を持つことは大切です。たとえばスポーツや音楽、観劇、旅行などでしょうか。
人間力を身につけるには、自分の経験だけでは限界があるので、読書を通して他人の経験から学ぶことも、自分の思考の材料となりおすすめです。
論語には「一張一弛」という言葉がありますが、これは力を最大限に生かすためには、一度緩めて一気に引っ張るということを表しています。張っているところが仕事であるとしたら、緩んでいるプライベートの部分をどう過ごすかを見直してみることは大切です。
たとえば、安岡先生は高校生に次のようなことを語るそうです。
高校生ともなれば、進学、部活の人間関係、親との軋轢などで悩むこともあるでしょう。悩んでいる時は周りに目が向かないものですが、安岡先生は「そういう時こそ夜空を見上げましょう」とお話しされるのだそうです。数秒でもいいから月を見る、そして、自分が抱えている世界とは別の世界があるということ、あるいは美しいものがそばにあったと気づくだけでも余裕ができます。瞬間、そこから離れることでエネルギーチャージをするということです。
論語では、自然の移りゆく姿に心を寄せることができることもリーダーにとって大切なことだと説いています。案件をかたづけることだけに囚われるのではなく、そこから離れるということができる習慣を持っていると、問題解決に対して違う見方でアプローチできることに気がつくかもしれません。あるいは友人との会話の中にヒントを見出すかもしれない。
自分の時間を使って心を解き放つ、日ごろから緩急をつけられるようにしておくことが大切です。
現代をよりよく生きるための教えに
今、不確実さが増している時だからこそ論語の言葉が身にしみてわかる、判断が難しい時だからこそ思い出される、と感じている人が増えています。ただ、若い時には論語に触れても、「文章もその意味も知っているが実感がわかない」「具体的な行動を示してくれていない」と感じる方も少なくないのだそうです。
しかし社会経験を積むにつれて、自分の経験と照らし合わせて「本当にその通りだ」と感じることが多くなるといいます。もともと論語は、孔子が若い弟子たちが、先の見通しを持って判断し、行動できるようにと語った言葉です。こうした原理・原則をおさえ、私たちなりに今の時代をよりよく生きるための判断につなげていきたいですね。
次回は、安岡先生が論語の神髄がわかるものとされている、論語の章句を3つご紹介し、論語の教えを私たちがどのように日々活かしていけば良いのかを教えていただきます。