60年の経験から見出した従業員エンゲージメントが高い企業の特徴
- 従業員エンゲージメントが高い企業には、共通する7つの特徴がある
- エンゲージメント向上施策に取り組む前には自社の現状を把握し、仮説を立てることが重要
はじめに
「従業員エンゲージメントが高い企業には、どんな共通点があるのだろう?」「社員がいきいきと働ける組織に変えていくには、優先度の高い課題は何だろうか?」そう感じている経営層や人事ご担当者の方も多いのではないでしょうか。
私たちは、組織開発・人材開発を専門に60年以上、さまざまな企業とともに職場の変革に取り組んできました。
そのなかで明らかになってきたのは、エンゲージメントが高い企業には、共通する7つの特徴があるということです。実際にこれらの特徴を踏まえてエンゲージメントの改善に取り組んだ企業からは、「職場に一体感が生まれた」「離職率が改善した」といった声が寄せられています。
本コラムでは、エンゲージメントが高い企業に共通する7つの特徴と、それらを踏まえて今後取り組むべき具体的な実行ステップをご紹介します。すべての要素を完璧に満たす必要はありませんが、自社の現状と照らし合わせながら、今後の施策を検討する際の参考情報としてご活用いただければ幸いです。
従業員エンゲージメントが高い企業に共通する7つの特徴

特徴1:MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が社内に浸透している
特に、企業の目指す姿(ビジョン)と社員個人の価値観やキャリアの方向性が重なっているとき、社員は「この会社で働くことが自分の成長にもつながる」と実感しやすくなります。これにより、会社への信頼や愛着が育まれ、組織への貢献意欲が高まっていくのです。
そのため、MVVは一度作ったら終わりではなく、時代や事業環境の変化に応じて見直しを行い、見直した後はさまざまな方法で社員の理解や共感を促進し、浸透を図っていくことが必要です。
この特徴を持つ企業の具体的な取り組み例:
-
MVVへの理解や共感を促すための社員同士の対話会や交流イベント
-
サステナブル経営に向けたビジョン策定や新規事業の検討会
-
研修や会議、座談会等で経営層から直接MVVの意義を伝える
このような取り組みを通じて、社員一人ひとりが自らの業務とMVVとのつながりを実感できるようになります。
結果として「自分の仕事が企業の成長や社会への貢献につながっている」と感じられるようになり、エンゲージメントが高まりやすくなるのです。
MVVが浸透した組織では、共通の価値観や目標に向かって協力し合える土壌が育ちやすくなります。これにより、組織に一体感が生まれ、離職率の低下や社員の定着率向上といったプラスの効果も期待できます。
特徴2:仕事のやりがいを実感できる環境が整っている
さらに、自身の「強み」や「持ち味」を発揮できる仕事に携わっているとき、人はより充実感が高まり、それがやりがいやパフォーマンスの向上につながります。自分の力を認められ、それが生かされていると感じられることは、組織への信頼や愛着の醸成にもつながるのです。
ただし、仕事は必ずしも好きなことだけで構成されるわけではありません。そのため、社員自身が「どのような強みを持ち」「何に貢献できるか」を明確に理解できるようにすることが重要です。上司や先輩が、日常的にその人の強みや役割、仕事のやりがいについて対話の機会を持つことは、社員のキャリアビジョン形成や自律的な行動を促進するうえで大きな意味を持ちます。
こうした対話と支援の機会があることで、社員は自らの仕事に対して前向きな姿勢を持ち、組織の一員としての自覚と意欲が高まり、エンゲージメントが育まれるのです。
この特徴を持つ企業の具体的な取り組み例:
-
ワークエンゲージメント向上につながるジョブクラフティング研修の実施
-
自己分析や他者評価を通じた自身の強みの再認識、成長実感を深める機会の提供(診断ツールの活用や1on1など)
-
キャリア研修による強みを生かしたキャリア設計の支援
このように、「やりがい」と「自己成長」の両面を支える環境がある企業では、社員が主体的に仕事に取り組み、組織とのつながりを深める傾向が強まります。その結果、従業員エンゲージメントが自然と高まるのです。
特徴3:能力開発の機会が整備され、社員が活用できている
特に新入社員や若手層は、将来のキャリアに不安を抱きやすく、能力開発の機会が少ないとキャリアへの不安から転職を考える場合もあります。職務を通じて得られる経験や啓発されるスキル、キャリアパスに関する情報が示され、能力開発の機会があることで、その不安は軽減され、エンゲージメントの向上につながります。
一方で、ベテラン社員やルーティン業務が中心のスタッフ職は、日々の仕事が「慣れ」によってこなせてしまうため、成長実感を得にくくなる傾向があります。このような層に対しては、後輩指導を通じて指導力や伝える力を高める機会を設けたり、リスキリングを通じた新たな挑戦の機会を設けたりすることが効果的です。
また、中間管理職層のように忙しさから学習の時間が取れない層に対しては、「実務と学びを両立できる設計」や「学びを業務の一部として取り込む工夫」が求められます。
この特徴を持つ企業の具体的な取り組み例:
-
eラーニングや資格取得支援など、幅広い年代の社員が活用できるリスキリング支援策
-
スキルや職種に応じた体系的な研修制度の整備
-
「求める人材像」の明確化と、それに沿ったキャリアパスの提示
-
若手を対象とした、研修プログラムの全体像や育成ステップを示す説明会の実施
このように、成長の機会が明確で、かつ誰もが活用しやすい環境が整っている企業では、社員が主体的に働きやすくなり、エンゲージメントの高い組織づくりが実現されています。
特徴4:上司がセルフエスティームを高める関わりをしている
また、「困ったときに頼れる」「約束を守ってくれる」「挑戦を後押ししてくれる」といった関わりがあると、社員は不安を感じることなく、安心して新しいことにも挑戦できます。
こうした信頼感と安心感は、心理的安全性の土台となり、結果としてエンゲージメントの向上につながります。
さらに、上司との関係において重要なのは、一方通行ではない「双方向のコミュニケーション」です。
上司が一方的に話すのではなく、部下が感じていることや考えていることを安心して話せる雰囲気があってこそ、信頼関係は築かれます。
対話の頻度が少なかったり、適切なフィードバックがなかったりすると、社員は「自分は必要とされていないのではないか」と感じ、孤立感やモチベーションの低下を招きかねません。
反対に、明確な期待を伝えられ、タイムリーな支援やフィードバックを得られる環境では、社員は自信を持って業務に取り組むことができ、より主体的に行動できるようになります。
この特徴を持つ企業の具体的な取り組み例:
- 定期的な1on1や進ちょくミーティングの実施
- 上司層へのポジティブリーダーシップ研修やコーチングトレーニング
- 対話スキルやフィードバックスキル向上を目的とした社内研修の実施
このような取り組みを通じて、「上司がきちんと見てくれている」「必要なときに支えてくれる」という関係性が生まれると、社員は心理的に安定し、組織への信頼と貢献意欲が高まります。
結果として、エンゲージメントの高い組織風土が醸成され、生産性の向上や定着率の改善にもつながっていくのです。
特徴5:コミュニケーションがオープンである
一方、三交代制勤務や頻繁な異動など、物理的・構造的に人間関係が築きづらい職場では、どうしてもコミュニケーションが希薄になりがちです。このような環境下では、社員が「受け入れられていないのでは」と不安を感じやすく、エンゲージメントの低下につながる可能性があります。
だからこそ、日常的にオープンな対話が交わされる職場づくりは、どのような業態・組織形態においても欠かせません。
また、オープンなコミュニケーションは、働きやすさの実感にも直結します。相談しやすい・声をかけやすい職場は、社員にとって安心できる居場所となり、結果として離職率の低下やリファラル採用の促進といった良い循環を生み出します。
この特徴を持つ企業の具体的な取り組み例:
- チーム内での心理的安全性を可視化・測定し、対話を促進するワークショップの実施
- 上司・部下間だけでなく、部門横断のコミュニケーションを活性化するイベントの企画
- ポジティブ職場開発やエンゲージメント向上をテーマにした社内プロジェクトの推進
このように、コミュニケーションがオープンな組織では、社員同士の信頼関係が深まり、情報共有や課題解決もスムーズになります。結果として、チームのパフォーマンスが高まり、組織全体の成長にもつながるのです。
特徴6:多様な働き方の選択肢を提供している
「働き方の選択肢がある」とは、例えばリモートワークや時短勤務、育児・介護休業制度、副業など、多様な働き方を可能にする福利厚生の仕組みが整備されており、社員がそれらを実際に活用できている状態を指します。近年では、男女問わず育児休業の取得を推進し、職場復帰を支援する取り組みを行う企業も増えています。
このように働き方の選択肢が用意されていれば、社員は「この会社は自分の状況を理解し、配慮してくれている」と感じやすくなります。その結果、組織に対する信頼や愛着が強まり、エンゲージメント向上にもつながります。
この特徴を持つ企業の具体的な取り組み例:
- 育児・介護・学業との両立を支援する育児・介護休業制度やフレックスタイム制度の導入
- タイムマネジメント研修やセルフマネジメント支援による生産性向上のサポート
- リモートワーク推進、業務プロセスの見直し・デジタル化による柔軟な業務運営
このような取り組みを通じて、社員は自分らしい働き方を実現でき、仕事と生活のバランスを保ちやすくなります。その結果、組織への信頼感や定着意欲が高まり、エンゲージメントの向上と優秀な人材の確保・定着につながっていくのです。
特徴7:努力や成果に見合った処遇や評価をしている
評価基準が明確で運用も適切に行われている企業では、社員はどのように評価されるかを理解したうえで、自律的に成長や成果の実現に向けて行動しやすくなります。努力がきちんと認識され、結果に応じた報酬やキャリアの機会が得られることで、「もっと貢献したい」「この組織で成長していきたい」という前向きな気持ちが高まります。
この特徴を持つ企業の具体的な取り組み例:
- 職務内容・スキル・成果に応じた処遇を実現するための人事評価制度の見直し
- タレントマネジメントシステムを活用したスキル・実績の一元管理と可視化
- 評価基準やフィードバック内容を社員と共有する運用ルールの徹底
このような取り組みにより、社員は「組織が自分を正しく見てくれている」という信頼感を持ち、日々の業務に前向きに取り組むことができます。その結果、エンゲージメントが高まり、定着率や組織パフォーマンスの向上といった好循環が生まれていくのです。
自社の施策に生かすためのおすすめ実行ステップ

1.7つの特徴チェックリストを基に自社の現状を把握する
まずは、自社のエンゲージメント向上施策に取り組む前に、「現状の把握」が欠かせません。的確な施策を立てるためには、現状を理解し、課題や強みを把握した上で仮説を立てることが重要です。
以下のチェックリストを参考に、「自社は各項目にどの程度当てはまっているか」を確認してみましょう。個人でチェックするだけでなく、上司、同僚の方々と共有しながら対話をすることで、組織の実情がより立体的に見えてくることもあります。
■エンゲージメント向上のための現状チェックリスト
(各項目を1~5点で評価してください:1=全く当てはまらない、5=非常によく当てはまる)
No |
チェック項目 |
評価(1~5) |
1 |
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が明文化され、社員に浸透している |
|
2 |
社員が自身の仕事にやりがいや貢献実感を持てるような環境や支援が整っている |
|
3 |
社員の能力開発や成長を支援する制度や機会が用意され、実際に活用されている |
|
4 |
上司が部下のセルフエスティームを高める関わりをしている |
|
5 |
コミュニケーションがオープンで、悩みや意見を率直に話し合える |
|
6 |
ライフスタイルや個人の事情に応じて、多様な働き方の選択肢が提供されている |
|
7 |
社員の努力や成果に応じて、公正で納得感のある評価・処遇が行われている |
|
なお、「自社の状況を正確に把握するのが難しい…」と感じる場合は、従業員エンゲージメントサーベイの活用もおすすめです。短期間で多くの社員の声を集めることができ、現状の把握がスムーズに進みます。
2.優先して取り組む施策を検討する
現状が把握できたら、次は「何から取り組むべきか」を考えるステップです。
課題が多く、何から手をつければ良いか迷う場合は、以下の観点を参考に優先順位を整理してみましょう。
- どの階層にアプローチすれば、最も大きな変化が生まれそうか?
- 短期・中長期、それぞれの視点で、どこから着手するのが効果的か?
- どの職場で先行的に取り組めば、成功事例として全体に展開できそうか?
「優先順位の付け方に悩んでいる」「優先順位を決めたが、社内だけでは施策の実行が難しい」という場合は、外部の力を活用することも一つの手段です。第三者の視点を取り入れることで、新たな気づきやアイデアが得られることもあるでしょう。
最後に
本記事では、従業員エンゲージメントが高い企業の特徴を7つご紹介しました。
すべての特徴を満たしている企業は決して多くはないかもしれません。まずは、自社が「どの特徴に当てはまるか」、そして「当てはまらない場合はどこを優先的に取り組むべきか」を考えることが、最初のステップとなるでしょう。
従業員エンゲージメントの現状を把握するために、エンゲージメント調査や社員アンケート、ヒアリングを活用するのも効果的です。ぜひ、本記事でご紹介したエンゲージメントが高い企業の特徴を参考にしながら、貴社のエンゲージメント向上にお役立てください。
当社では、従業員エンゲージメントに関するご相談はもちろん、社員の定着率向上や組織の生産性向上、活気ある職場づくりのご支援も行っています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。